不動産の選定のポイント

不動産投資・運用マニュアル

第1

不動産の投資

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不動産の選定のポイント

不動産投資においては、その所有形態と用途の組合せにより、様々な不動産が投資の対象となりますが、中古不動産と新築不動産(開発型を含む)に分けて考えた場合の主だったものについて、選定のポイントを下記に示します。
(1)

中古不動産の場合

(イ)
貸事務所ビル
貸室を主に事務所用に賃貸する建物です。一般的に2~3年間の短期賃貸借契約となり、設備・内装等の所有区分、維持費負担区分は通常全て所有者となります。
投資対象としての貸事務所ビルには次のような特徴があります。
(a)
賃料収入に対して維持管理費等の支出割合が高く、表面利回り(年間総収入÷投資資金)に対してネット利回り(年間純収入÷投資資金)が低くなる傾向にあります。
(b)
入居者(テナント)にとって、入退去に伴う負担が少ないため退去しやすく、テナントの退去リスクが高い傾向にあります。
(c)
築年が古い建物の場合、最新のビルに対抗できるだけの設備水準を維持することは構造的にも費用的にも難しいため、市場競争力を失いやすい傾向にあります。
(d)
通常、一般投資家の投資対象となる売買価格帯の貸事務所ビルは事務所ビルとしては中小規模に分類されると考えられ、一般的に中小貸事務所ビルは大規模貸事務所ビルと比べて下記のような弱点があるため、市場競争力が低い傾向にあります。
レンタブル比(延床面積に占める専有面積の割合)への影響が大きいのでエントランス等に床面積を多く配分できないため、共用空間が貧弱。
常駐管理体制等をとることがコスト的に難しいので、セキュリティ等の面で不利。
敷地面積等の関係から高さ制限を受けやすく階高が低くなるので、天井が低い。
ワンフロア当りの床面積が小さいためテナントによっては事務室が多層に分かれ事務効率が悪い。
いわゆる天井カセット方式の空調となり、ペリメーターゾーン(窓際)の空調コントロールが難しいため、執務環境が悪い。

従いまして、貸事務所ビルについては、立地が極めてよく、かつ、建物グレードが高く賃料水準や入居率が優れているもしくはバリューアップにより賃料水準や入居率の向上が見込めるケース、優良テナントとの長期賃貸借契約が締結されているケース等に限って、選定すべきものと考えられます。
(ロ)
貸店舗建物
貸室を主に店舗用に賃貸する建物です。店舗用途は物販、飲食、娯楽等多岐に渡ります。また、商業地に建つ高層ビルから、郊外の低層ロードサイド店舗まで建物形態も多岐に渡ります。
設備・内装等の所有区分、維持費負担区分はケースバイケースで、テナントからの保証金、建設協力金等の預かり金の額もケースバイケースです。
また、契約期間(短期、長期固定解約不可等)、賃料方式(定額賃料、歩合賃料等)、賃料改定の定め(短期見直し、長期固定等)もケースバイケースであることから、次のような特徴があります。
(a)
優良テナントが入居している場合は、手間がかからず、長期に安定した収益を得ることが出来ます。反対に不良テナントが入居している場合は、賃料滞納、風紀不良等、さまざまな問題を抱えることになりますので、物件ごとの格差が大きい傾向にあります。
(b)
空調設備や内装などテナントの持込資産となっていて、かつ共用部分の面積が小さい場合は維持管理にほとんど費用が掛からず、表面利回りに近いネット利回りを維持できます。反対に空調設備等の資産区分や維持費負担区分が所有者となっている場合や、共用部分の面積が大きい場合は、他の用途建物に比べて貸店舗建物は設備や内装の使用頻度や負荷が高く、修繕や更新が頻繁に必要となるため、多額の維持修繕費が発生し、将来的にネット利回りの低下が起こる傾向にあります。
(c)
事務所に比べてテナントの出店投資額が大きく、契約期間も長いケースが多いため、テナントの退去リスクは比較的低い傾向にあります。
(d)
保証金や建設協力金として多額の資金をテナントから預かるケースが多く、その分だけ自己調達資金が少なくなりますのでネット利回りが高くなる傾向にあります。
(e)
テナントの業績が賃料にダイレクトに影響するため、歩合賃料の場合はもちろんのこと定額賃料の場合も、契約の定めによっては賃料減額リスクが高い傾向にあります。
以上の特徴から、貸店舗建物の選定における留意点は下記のとおりとなります。
(ⅰ)
立地がよいこと。
(ⅱ)
テナントが優良であること。出来れば業績が安定している企業の直営店舗
(ⅲ)
繁盛していること。
(ⅳ)
賃貸借期間、保証金、賃料改定条件、解約条件等の契約条件がよいこと。
(ⅴ)
風紀が乱れていないこと。
(ⅵ)
建物が劣化していないこと。
(ⅶ)
空調設備、内装等の維持管理費用が多額な部分についての資産区分が極力テナントになっていること。
(ⅷ)
費用負担について賃貸借契約書に明確に定められていること。
(ハ)
賃貸マンション
貸室を主に居住用に賃貸する建物です。世帯向けと単身者向けに大きく分かれます。
他の用途に比べて、一室あたりの貸室規模が最も小さく、賃料(家賃)も小額ですが、契約者数が多くなります。
また、建物価額に占める附属設備価額の比率が小さく、頻繁に修繕、更新が必要な設備、内装等もほぼ貸室内に限られます。
さらに、通常、家賃の2ヶ月分程度の礼金や2年毎の更新料を受け取ることから、次のような特徴があります。
(a)
退去があっても賃料収入全体に占めるインパクトが小さく、年間収入の増減が少ない傾向にあります。
(b)
礼金や更新料で維持修繕費の多くはカバーできますので、維持費負担は少なくなり、その分表面利回りとネット利回りの差が小さくなる傾向にあります。
(c)
契約者数が多いため、入居者管理が煩雑になります。
立地による競争力の差が非常に大きく、立地がよい場合は安定した稼働率を維持できますが、逆に立地が悪い場合はペット可等の付加価値をつけるなど、稼働率を上げるための工夫が必要となります。
以上の特徴から、賃貸マンションの選定における留意点は下記のとおりとなります。
(ⅰ)
立地がよいこと。
(ⅱ)
単身者向けであれば1戸当りの専有面積が広いこと。20㎡以下では将来的に競争力が失われます。都心部でも最低25㎡以上、地方都市の場合で30㎡以上であることが必要と考えられます。
(ⅲ)
世帯向けであれば1戸当りの専有面積が広すぎないこと。分譲マンションと競合するケースや、1戸当りの家賃が高くなってニーズが限られるケースにより、空室リスクが高くなります。立地によって異なりますが、60㎡程度が上限の目安になると考えられます。
(ⅳ)
メンテナンスの掛からない外装、共用部の仕上げとなっていること。賃貸マンションの維持費の多寡は共用部分の修繕費の多寡によります。外装がタイル貼で、かつ、施工状態がよければ、年数が経過しても水洗い程度のメンテナンスで済みますが、吹付塗装の場合は、10年程度毎の吹き替えが必要になり、その際、全面足場が必要になりますので、その度多大な費用が掛かります。
(ニ)
店舗区分所有
高層建築で、上階が分譲マンションやホテルとして利用されて、低層部分が店舗となっている建物の低層部分を取得する形態が中心です。貸店舗建物と共通する特徴以外に次のような特徴があります。
(a)
単有に比べてリスクプレミアム(リスク対応の超過利潤)がつきますので、高利回り物件になります。
(b)
所有者とテナントの関係に加えて、他の区分所有者との関係が生じます。管理規約の内容によっては、テナント募集における制約や共用部分の維持修繕費の過度な負担が生じる可能性があります。
以上から、店舗区分所有物件の選定については、(ロ)の店舗建物の留意点に加えて、下記の点に留意する必要があります。
(ⅰ)
専有部分・共用部分の区分(線引き)、それぞれの部分に修繕等が必要になった場合の費用負担の区分等が明確になっていること。
(ⅱ)
管理組合における決議等の条件が店舗区分所有者に不利な内容となっていないこと。
(ホ)
事業用借地の底地
借地借家法で新たに制度化された事業用の定期借地権を設定して、10年以上50年未満の間の長期固定契約により店舗事業者等に賃貸する土地(底地)です。家電量販店やホームセンター等の出店に活用されて取引事例が増えています。次のような特徴があります。
(a)
長期固定賃貸借契約、賃料固定、契約満了時の更地返還等、土地所有者に有利な契約とすることが出来ます。なお、契約書は公正証書で作成することが必要です。
(b)
建物部分の投資負担がなく、かつ、貸地であることによるリスクプレミアムがつくことから、一般的に高利回り物件となります。
以上から、事業用借地の底地の取得については下記の留意点があります。
(ⅰ)
テナントが優良であること。事業用借地契約は長期間にわたって安定収入が約束されますが、唯一、出店企業の倒産リスクは残りますので、テナントの将来性、業績見込等が重要となります。
(ⅱ)
立地がよいこと。定期借地期間満了後の再利用を含めて立地を検討する必要があります。
(ⅲ)
賃貸借期間が十分残っていること。
(ⅳ)
原則賃料固定となっていること。途中解約できませんので、賃料減額リスクが極力少ない契約であることが必要です。
(ⅴ)
預かり保証金が十分あること。万一、テナントが倒産した場合、滞納賃料、建物解体費等の回収が必要となります。
(ヘ)
その他
特殊な用途として、貸倉庫建物、貸工場建物、貸駐車場用建物等があります。また、特殊な所有形態として、共有建物、借地権付き建物等があります。
用途が特殊であることや所有権が制限されることから、リスクプレミアムがつき高利回り物件となります。
区分所有や事業用借地と異なり、処分(売却)に難航するケースがこれまでは多かったので、取得する場合は慎重に検討する必要がありましたが、昨今は、不動産投資ファンドやリートも取得を積極的に行っていますので、処分のリスクは小さくなってきています。
選定にあたっては、賃貸借契約期間満了時の再利用等を十分に検討する必要があります。
(2)

新築不動産の場合(開発型を含む)

新築不動産の場合は、下記の点に留意する必要があります。
(イ)
開発用地
開発を前提とし、更地や古家屋付の土地を取得する場合には、完成物件(新築、中古を問わない)を取得する場合と比較して、下記の留意点があります。
(a)
立地が優れていること
もともとの自己所有地を有効活用するのと異なり、新たに土地を取得して最適活用を行なうのですから、立地が優れていることが絶対条件となります。
(b)
法令に基づく条件が優れていること
開発物件における収益性は、立地条件が同等であっても、法令に基づく制限の状況により、大きく異なってきます。
都市計画法に基づく用途地域や容積率だけでなく、前面道路幅員による容積制限や斜線制限がないこと、日影規制による容積制限が生じないこと、電波法等による高さ制限が生じないこと、地型による容積制限、高さ制限等が生じないこと等を確認する必要があります。
また、総合設計制度等の容積ボーナス制度の適否によっても収益性は大きく異なってきます。
(c)
土壌汚染リスク等がないこと
土地の場合、代表的なリスクとして、土壌汚染リスク、地中埋設物リスク、埋蔵文化財リスクがあります。いずれも購入後に存在が確認された場合は、多大な対策、撤去費用、及び対策、撤去期間を要することになるため、収益性に大きな影響を与えます。
土壌汚染リスク、地中埋設物リスク、埋蔵文化財リスクがない土地を購入することが重要です。
なお、事前の完全なリスク排除が困難な場合(確証が得られない場合)は、売買契約書上でリスク排除を行なう必要があります。
(d)
開発リスクを見込んでも、なお十分な収益性が期待できること
完成物件と比較して、自己開発の場合は、完成までに様々なリスクがあります。これらの開発リスクを十分見込んだ上で、収益性を検討する必要があります。
以上のように、開発を前提とした土地取得には、一般の方が投資判断する上で、難しい面が多く存在します。
従って、更地等を取得する場合でも、下記のような、活用方針が既に確定済みで、かつ、収益見込も確定しているものについて、選定の対象とすべきものと考えられます。
(ロ)
新築1棟売り賃貸マンション
賃貸マンション1棟全体を投資対象とする新築物件をいいますが、物件により、下記の取得形態があります。
(a)
土地と賃貸マンションの建築プラン・収支計画と施工会社等が決まっていて、投資家が売主から直接土地を購入し、施工会社と建物の請負契約を締結して建設する。
(b)
土地と賃貸マンションの建築プラン・収支計画が決まっていて、投資家が土地を購入し、建物は確認申請取得後に売買契約を締結し、完成後決済引渡しを受ける。
(c)
土地と賃貸マンションの建築プラン・収支計画が決まっていて、確認申請取得後、土地建物の売買契約を締結し、完成後決済引渡しを受ける。
(d)
完成直前または完成直後に売買契約を締結し、完成後決済引渡しを受ける。
(a)は、所有地の有効活用に近い取得形態で、(d)は通常の完成物件の不動産売買に近い取得形態です。(b)、(c)は両者の中間的取得形態です。
(a)の取得形態ですと、開発リスクの殆どを投資家が負担することになりますが、デベロッパー等の開発利益や経費が必要とならない分、投資効率が良くなります。
所有地の有効活用と違って、賃貸マンションとしての最適立地を選ぶことが出来ますので、立地の選定を誤らなければ、最も投資効率の優れた方法といえます。
(d)の取得形態ですと、入居者もほぼ確定し、賃料収入もほぼ確定した段階での取得となり、リスクは低くなりますが、デベロッパー等の開発利益や経費が土地、建物両方に掛かってきますので、投資効率が悪くなります。
従って、立地が優れていて、かつ、完成時点での収益予測が正しく行なわれている場合は、(a)の取得形態が最も優れていると考えられます。立地が優れているかどうかの判断、収益予測が正しいがどうかの判断が非常に重要となります。
(ハ)
リースバック店舗建物
家電量販店、ホームセンター等が新規出店を進める場合において、新規に土地を取得して、自ら店舗建物を建設し、その土地建物を投資家(ホルダーといいます)に一括売却してテナントとして入居するケースがあります。家電量販店、ホームセンター等側の事情として、同業他社よりも優れた立地で新規出店を促進するためには、店舗用地を他社に先んじて自ら取得して自ら建設する必要があるものの、新規店舗を全て自己保有するには莫大な資金が必要となり、出店の目途が立った店舗から順次ホルダーに保有してもらわないと資金が回らなくなるという問題があります。
ホルダーにとっては、家電量販店、ホームセンター等が最適立地として選定した立地に長期の賃貸借契約で入居が確定している物件となりますので、非常に優れた投資案件となります。
従って、ホルダー、入居者双方にとってメリットのある案件といえます。
ホルダーの関与時点によって、下記の取得形態があります。
(a)
テナントとなる家電量販店等が土地を選定した段階で、ホルダーが土地を取得し、ホルダーが施工会社と建物の請負契約を締結する。
(b)
テナントとなる家電量販店等が土地を選定した段階で、ホルダーが土地を取得し、テナントが建物を建設して売買契約によりホルダーに譲渡する。
(c)
テナントとなる家電量販店等が土地を取得し、建物を建設して土地建物としてホルダーに譲渡する。
建設工事については、テナントによって建物仕様等が決まっていますので、テナントが直接設計監理者や施工会社に発注した方がスムーズに進められます。テナントは工事発注を多く行なっていますので、工事発注価格交渉もテナントが行なった方が有利に進められます。また、テナントが直接発注する場合は、建設工事に開発利益は必要ありません。従って、ホルダーが請負契約を締結するよりも、売買契約で建物を取得する方が、建物取得原価が安くなる可能性が高いといえます。
一方、テナントが一旦、土地を取得した場合は、登録免許税、不動産取得税等の取得経費が二重に掛かることになりますので、土地の取得原価が高くなります。
以上から、ホルダーにとっては、(b)の取得形態が最もリスクが少なく、かつ、投資効率が良い方法だと考えられます。
選定のポイントは下記のとおりです。
(ⅰ)
テナントの信用力が高いこと。
テナントの倒産リスクが最大のリスクとなりますので、テナントの将来性、業績見込等が重要となります。
(ⅱ)
投資の最初の段階(上記(b)であれば、土地取得の段階)に、総投資額、収益が確定できること。
土地の売買契約時に、建物の売買予約契約、建物の賃貸借予約契約を締結し、建築確認を取得後、土地決済と同時に建物売買契約と建物賃貸借契約を締結します。最初の出金時(土地決済時)には、投資スキームが完全に固まっている必要があります。土地を取得してから賃貸借条件の交渉を行なったのでは、ホルダーに不利な条件になりかねませんので、投資検討の段階で条件が固められるテナントとの案件を選定すべきです。
(ⅲ)
転用が可能な立地であること。
テナントが途中退去した場合や、契約期間満了で退去した場合に、他テナントの誘致や他用途への転用(マンション用地、戸建住宅用地)が行なえる立地であることが必要です。用途地域が工業地域であっても住宅の建設は可能ですが、できれば準工業地域以上であることが望ましいと考えられます。
(ニ)
店舗以外の新築一括借上建物
店舗以外の新築一括借上案件で多いのは、有料老人ホーム、ビジネスホテル、スポーツクラブを新規に誘致するケースです。
これらの用途は、家電量販店やホームセンター等の店舗よりも、テナントごとの建物仕様が独特なものとなり、汎用性が低い(例えば、A有料老人ホームとB有料老人ホームでは全く仕様が異なる)のが通例です。さらに、鉄筋コンクリート造等の堅固建物であることを求められることが多く、床面積あたりの建設費用も店舗用建物の数倍を要します。万一、退去して建物を解体する場合も多額の費用が掛かります。
従って、店舗用建物の一括借上よりもさらにテナントの選定が重要になります。
基本的に転用はできないものと考えて、投資判断を行なう必要があります。
(ホ)
新規事業用借地の底地
事業用借地の場合は、建物を保有しませんので、中古と新築の差異はないといえます。上記⑴の事業用借地の底地と同様の特徴、留意点があります。