建物調査(劣化調査・法的調査)と修繕・リニューアル計画の策定

不動産投資・運用マニュアル

第2

不動産のバリューアップ

集合写真

建物調査(劣化調査・法的調査)と修繕・リニューアル計画の策定

建物を構成する建築材料、設備機器等は、環境や経年変化により、損傷、劣化が生じていきます。また、新築時は建築基準法や消防法に適法していたものが、テナントニーズによる改修や改造によって、違法状態になることがあります。さらに、技術の進歩やニーズの多様化によって、付属設備や建築仕様が陳腐化し、建物自体の収益不動産としてのマーケットにおける競争力が失われていきます。
このように、建物は徐々に市場価値を失っていきますので、市場価値を維持し、さらに市場価値を高める努力をすることによって、バリューアップを図っていく必要があります。
(1)

事後保全と予防保全

建築材料、設備機器等に劣化や事故、故障が生じてから修理、交換等を行なうことを事後保全といいます。これに対して、劣化や事故、故障が生じる前に、これらが生じることを未然に防止するために計画的な点検、修理、交換等を行なっていくことを予防保全といいます。
予防保全を行なうことにより、建築材料、設備機器等の寿命(実質的耐用年数)は1.5倍から3倍程度に延長することが可能となります。また、故障による機能停止等の不測の事態を避けることができ、常に必要な機能を発揮することができることになります。
BM会社(建物管理委託会社)が行なう、保守・点検等及び修理・交換等は、一部を除き、事後保全が主体となります。管理委託契約上、予防保全に相当する項目は限られており、また、予防保全を行なうと、別途費用が生じ、BM会社から積極的に提案しがたい側面があるためです。また、BM会社は短期的な収益力の維持(=管理コストの削減)を期待されているため、長期的な視点で建物の生涯コストの削減を目指す予防保全の考え方と、目的が一致しがたい側面もあります。
予防保全を行なうためには、建物所有者が積極的にPM会社、BM会社に提案し、そのための建物調査、及び調査に基づいた予防保全計画の立案を求めていくことが必要となります。
(2)

既存不適格建築物と違法建築物

用途地域や容積率制限の見直し、建築基準法や消防法の改正等により、建築時には合法建築物であったものが、現行基準に照らすと違法状態となっている建物があります。
これらの建物を既存不適格建築物といいます。
消防法のように遡及規定があるものは、法改正に伴って、建築設備の変更が求められる場合がありますが、それ以外のものについては、既存不適格建築物であっても、増築等の確認申請を新たに行なわない限り、現行法に合わせる必要がありません。逆に、増築等の確認申請を行なうときには、建物全体を現行法における適法状態にする必要が生じます。
これに対して、建築時は駐車場であった部分を店舗に改造したり、屋上に倉庫を増築したり、本来、建築確認申請及び確認検査が必要な用途変更、増築等を無断で行なった場合は、違法建築物となります。違法建築物が生まれるケースの多くは、容積率制限等に抵触するので適法には用途変更や増築等ができないケースや、既に既存不適格建築物となっているので用途変更や増築等を行なうと多大な改善費用が生じるために確認申請を避けたケースであり、確認申請さえ行なっておれば合法建築物になっていたケースは稀です。
将来の不動産の売却を考えた場合、既存不適格建築物はあまり問題とされませんが、違法建築物は程度によって10%から数10%のディスカウントが生じます。有力な買い手(高価格を提示する買い手)ほど、違法建築には神経質ですので、不動産投資の際に、改善可能な違法状態であるかどうか、十分見極める必要があります。
(3)

不動産の陳腐化

建物に求められる仕様やデザインは時代とともに急速に変化し、以前は当り前であったものが、わずかな月日の経過でニーズに対応できないものになっていきます。建物の外壁に用いられるガラス一つを取ってみても、わずか10数年の間に、透明ガラス→熱線吸収ガラス→熱線反射ガラス→高性能熱線反射ガラス→LOW-Eガラスと変化しています。ガラスのように無機質で、機能的劣化が生じない建築材料においても、このように時代のニーズの変化により陳腐化が生じます。
共用部分の陳腐化の代表的な例として、オートロックの有無や防犯システムの有無等が挙げられます。専有部分の陳腐化の代表的な例として、住宅においては、和室中心の間取り構成→洋室中心の間取り構成の変化、カーペットを主体とした床材構成→フローリングを主体とした床材構成の変化、オフィスにおいては、フロアダクト配線方式→OAフロア配線方式、キーシステム→カードシステム、セントラル空調→個別空調、等の方式の変化が挙げられます。
このような機能的な陳腐化に加えて、経年劣化による陳腐化も当然生じます。
入居者はいずれの陳腐化に対しても、厳しい評価をしますので、入居者の維持や賃料水準の維持のためには、陳腐化への対応が欠かせません。
(4)

建物調査

上記の、予防保全、違法改善、陳腐化対応について、中長期的な計画を策定するために、建物の現状調査を行ないます。
建物調査は、大きく3段階に分かれます。
第一段階は、建築確認申請図、構造計算書、竣工図、施工図、改修工事図等をもとに、図面調査を行ないます。
第二段階は、建物を実地に調査し、目視や点検、試験等によって、図面等と現状の差異及び各建築材料、設備機器等の劣化状況を調査します。この段階で、図面等と異なる違法部分もチェックします。
第三段階は、図面調査、実地調査の結果を踏まえて、耐震診断、PML分析、試験結果分析等のデータ分析を行ないます。
築年数の古い建物等で、建築確認申請図、構造計算書、竣工図等が全く残っていないケースがありますが、その場合は、建物の現状を測量調査して図面を起こし直す必要があります。修繕・リニューアル計画の策定のためには、基となる現状図面が欠かせませんし、構造計算書等がない場合でも、復元図面で構造部材等の外寸が推定できれば、相当に精度の高い耐震診断等が可能になるからです。
建築基準法の昭和56年6月の改正で、いわゆる新耐震設計法が導入されました。昭和56年6月以降に確認申請を提出した建物は、新耐震基準に基づいて設計されていますので、竣工時期で考えた場合は、概ね昭和57年以降に完成した建物は新耐震基準に合致していることになります。
新耐震基準に合致しておれば、地震リスクは少ないものと考えられますが、旧耐震基準の建物については、検証を行ない、対策が必要と判断された場合は、対策方法を検討します。
地震リスクの検証方法として、耐震診断とPML分析があります。
耐震診断は、1次診断から3次診断までの段階に分かれており、具体的な耐震改修案を作成するためには、3次診断まで行なう必要があり、診断費用も高額となります。

PML(Probable Maximum Loss)分析は、建物の大まかな形状、特性と、耐震性能指標(Is)、地盤特性値(Tg)、立地付近の過去の地震履歴データ等から、プログラムを使って、475年に一度の確率で起こる地震による損害率を算出するものです。
損害率に、建物の再調達価額(全体を新築するとした場合の工事費)を乗じることにより、大地震が起きたときに要する復旧費用が算出できます。
しかし、PML値の計算の前提となる、建物データの入力精度や地震データの信憑性は公的に確定されておらず、現状のPML値は、建設会社やエンジニアリング会社、損保会社等が独自の算出基準で算出しているものに過ぎないことから、工学的には疑問が残るものと考えられます。
PML値は、参考値程度に捉えて、具体的な耐震対策の検討のためには、耐震診断を行なう必要があるものと考えられます。
(5)

入居者のニーズ

建物調査の結果に従い、修繕・リニューアル計画を策定するにあたっては、入居者のニーズを十分に把握する必要があります。入居者のニーズが乏しいリニューアルを行なっても、対投資効果が期待できません。
事務所ビルを例に取ると、入居者が事務所選びの際に重要視している事項の上位は下記のとおりです。
個別24時間空調設備
建物外観やロビーなどのイメージ
24時間対応入退館セキュリティシステム
快適なトイレ
OA対応
50VA/㎡以上の電気容量

このような項目の改善を行なわずに、その他の部分に多額の費用をかけても、不動産のバリューアップを行なったことにはつながりません。
現行入居者へのアンケート調査等により、直接ニーズを把握する方法が有効です。
(6)

修繕・リニューアル計画の策定

建物調査の結果、及び入居者のニーズを踏まえて、修繕・リニューアル計画を策定します。
修繕は、建築材料や設備機器の延命を図ることをいいます。建築材料であれば、外壁の上塗りや床材の張り替えが該当し、設備機器であれば、故障した部品の取り替え等が該当します。ある程度の機能回復は期待できますが、新築時の機能までの完全回復は期待できません。
リニューアルには、更新と改修が含まれます。
更新は、機能を新築時の水準まで完全に回復させることをいいます。建築材料であれば、外壁の仕上材料を撤去し、躯体を補修・補強した上で再塗装をしたり、床材を撤去し、躯体の不陸を補修し、仕上材を貼り直すこと等が該当し、設備機器であれば、全体を新品に取り替えること等が該当します。
改修は、時代の変化に合わせ、現代の水準にまで機能を向上させることをいいます。
建築材料であれば、外装材のグレードアップ、イメージを向上させるインテリアデザインの変更、耐震改修等が該当し、設備機器であれば、省エネ、情報化対応の機器の導入等が該当します。
修繕を行なうか、更新を行うか、あるいは、改修を行うかの判断は、原状、これまでの修繕履歴、耐用年数(法定耐用年数ではなく、日本建築学会や各設備機器メーカーが実績や試験結果にもとづいて算出している平均耐用年数)、修繕、更新、改修それぞれの場合の必要コスト等を踏まえて、総合的に判断します。
改修を行なう場合は、コンサルタント、デザイン事務所、エンジニアリング事務所等から改修計画についての提案を受けるようにします。なお、一社指名工事とならないよう、この時点では、特定の建設会社から提案を受けることは避けるようにします。
修繕・リニューアル計画は、上記の修繕、更新、改修毎に、かつ、建物部位、建物材料、設備機器等毎に、かつ、予定年度毎に作成します。
一度に全部の工事を行なうと、一時に多額の出費となりますので、単年度の収支が極端に悪化してしまいます。逆に、長期にかけて行なうと、仮設工事費(足場や養生等に要する費用)や工事管理費(請負会社の経費)が割高となります。関連工事や同一の仮設工事を伴う工事などをまとめて実施する計画として、3~5年程度で全ての工事を完了させる計画とするのが一般的です。
作成した修繕・リニューアル計画に基づいて、数社から見積を徴収し、見積参加会社の意見を入れながら、実施計画、予算計画を確定します。
見積金額が当初予想と大きく食い違った場合は、実施予定年度を変更する等の調整を行います。
修繕・リニューアル計画の例(3ヵ年計画の場合)