法定後見制度の知識5|後見人の制度

成年後見ガイド

第2

法定後見制度

3

後見人、保佐人、補助人の制度

本人を保護するために後見人などが持つ権限は、同意権、取消権、代理権をこれまでに見てきましたが、本人保護という任務に人を就かせるわけですから、その選任手続きや報酬などについても法律に規定があります。
(1)

後見人の制度

(イ)
これまでの制度と新しい制度の違い
(a)
これまでの制度
これまでは、ある人に後見が始まった場合、その人に配偶者がいるときはその配偶者が必ず後見人になると法律で決められていました。これを配偶者法定後見人制度と言いました。そして、配偶者がいないときに限り、申立てによって後見人選任の手続きをすることになっていました。つまり、後見を始める(=禁治産宣告を求める)ときの申立てと、この後見人選任のときの申立てと、配偶者がいない場合は2つの申立てが必要な手続きになっていました。
また、後見人が死亡するなどしていなくなったときも、申立てによって、新しい後見人を選任するという制度がありました。
しかし、認知症を原因として後見が始まる場合などでは、配偶者も相当の高齢者であることが多く、必ずしも後見人として事務をするのに適当でないことが問題でした。そこで法改正によって、配偶者法定後見人制度は廃止されることになりました。
(b)
新しい制度
配偶者法定後見人制度が廃止されることによって、どの場合でも必ず誰を後見人にするかを決める手続きをしなければならないことになりました。そこで、手続きの合理化が図られ、裁判所は、後見開始の審判をするのと同時に後見人を選任することになりました。つまり、後見人選任申立だけを後見開始の審判申立と別個に独立して行わなくても良いということです。
また、後見開始のときの選任に申立てが不要とされたこととの均衡から、後見人がいなくなったときの新たな選任のときも、必ずしも申立てが必要とはされていません。
(ロ)
後見人の選任
(a)
前述のように、後見開始の審判があれば、家庭裁判所が職権で後見人を選任することになります(843条1項)。申立ては不要です。
後見人が死亡するなどしていなくなったときは、家庭裁判所は職権で新しい後見人を選任することができますが、家庭裁判所が後見人の死亡などの事情を知らないこともあるので、この場合は本人や関係者の申立てによる選任も認められています(843条2項)。
(b)
後見人の選任基準
後見人を選ぶのは、基本的には家庭裁判所の裁量による総合的な判断ですが、その判断の際に考慮しなければならないいくつかの事情が法律で決められています(843条4項)。
1)
本人の心身の状態、生活、財産の状況
本人自身の状態や経済状況など、本人に関係する諸々の事情です。
2)
後見人になる人の職業、経歴
後見人は、他人を保護する事務をするのにふさわしい人物でなければなりません。
3)
後見人になる人と本人の利害関係
後見人と本人との間に利害が対立する関係があれば、後見人は代理権を使って、自己に有利な反面後見人に不利な契約を結んでしまい本人を害しかねないので、こうした関係を考慮しなくてはなりません。
4)
後見人になる人の意見
後見人になる人自身の意思も確認しなければなりません。
5)
その他一切の事情
1)から4)以外の事情でも重要な事柄は考慮でき、総合的な判断で妥当な後見人を家庭裁判所は選ぶことができます。
(ハ)
後見人になる人
(a)
法人
これまでの法律では、法人が後見人になりうるかについて法律上明確に規定されておらず、明らかでありませんでした。
しかし、法人が後見人となると、その組織力によって強力な保護ができますし、法人の事業が法律関係や福祉関係の事業であれば、専門的なサポートも期待できます。
こうした有効性から、改正後は法律の条文上、法人が後見人となりうることが明らかにされました(843条4項)。ちなみに法人を選ぶときに考慮する事情は、前述の2)、3)に代えて、2)法人に関する事情として事業の種類、内容、さらに3)法人、法人の代表者と本人の利害関係が、法律で決められています。1)、4)、5)は通常の場合と同じです。
(b)
複数の人
従前は後見人の数は1人に制限されていました。複数の後見人を選んでしまうとこれらの人たちの間で意見の対立や混乱が生まれた場合に後見事務が滞ってしまうからです。
しかし、後見人の1人を親族にして、もう1人を法律家や福祉の専門家にするなど、複数の後見人が認められると本人の手厚い保護が図れるというメリットもあります。
そこで、改正により、後見人を1人にするという規定は未成年後見人についてのものと限定し(842条参照)、成年後見人については複数の後見人も選べるものとされました。
そして、複数の後見人間での対立や混乱を避けるために、家庭裁判所は各後見人の権限に関する定めや、または全ての後見人が共同して権限を行使しなくてはならないという定めを、職権で設定できるようになりました(859条の2第1項)。この定めはやはり家庭裁判所が職権で取り消すこともできます(859の2第2項)。
また、後見人が複数いると、取引の相手方は誰に対して意思表示をすれば良いのかわかりません。そこで、複数の後見人の中の誰か1人に対して意思表示をすれば良いとされました(859条の2第3項)。
このように複数の後見人が選べるようになったことに対応して、すでに後見が始まった後でも事後的に後見人を複数にできるように、後見人の追加的な選任もできるようになりました(843条3項)。
(c)
後見人の欠格事由
後見人は、能力の不足する他人を保護する事務を行うので、誰でも良いというわけにはいきません。もちろん個々の選任のときに実質的な審理も行うのですが、類型的にこうした事由がある人は後見人にふさわしくないと考えられる事由(欠格事由)が法律で5つ規定されています(847条1号から5号)。
なお、これまでは禁治産宣告、準禁治産宣告を受けたことも欠格事由とされていましたが、差別的であり好ましくないので、改正によって削除されています。
1)
未成年者
未成熟であり、法的には未成年者自身も親権者などの保護が予定されており行為能力も制限されているので、十分に後見事務を行うことはできず、後見人にはなれません。
2)
家庭裁判所で解任などをされた法定代理人、保佐人、補助人
家庭裁判所により、親権を失ったり、保佐人、補助人を解任されたりした人なので、他人の保護の事務をするのがふさわしくないとすでに判断されています。
3)
破産者
自己の財産をうまく管理できない人なので、他人の財産を管理する任務を任せるべきではありません。
4)
本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
本人と訴訟をしている人は、利害が対立していたり、本人に悪い感情を持ったりしているので、本人の保護は任せられません。その配偶者、直系血族も身近な人なので、事実上の利害対立や感情的な対立があります。
5)
行方の知れない人
どこにいるのかわからない以上、後見の事務ができません。
(ニ)
後見人の職務
(a)
後見人の職務
1)
財産の調査、財産目録の作成
後見人の職務としては、本人の身上監護とともに、その財産の管理が重要です。そこで、財産管理のために本人の財産を把握する必要があるので、後見人は選任されたらすぐに本人の財産の調査を始め、1か月以内に調査を終えて財産目録をつくらなければなりません(853条1項)。
また、選任されたらすぐにしなければならない職務としては、本人の生活、教育、療養看護、財産管理のために毎年支出する金額を予定しなければならないというものもあります(861条1項)。
2)
財産管理権
後見人は代理権と同じく、本人の財産について包括的な財産管理権を持っています。財産管理権というのは、財産の価値が損なわれないように維持したり、また財産の性質が変わらない範囲でこれを利用したりすることもできる権利です。たとえば預貯金の管理などがこれにあたります。
(b)
後見人の権限の制限後見人は包括的な代理権、財産管理権を持っているので、原則として全ての行為について代理することができるのですが、それが本人にとって悪い影響を与えるおそれのある一部の行為については、特別に法律で制約がされています。
1)
本人の居住用不動産の処分についての許可
後見は包括的代理権によって、本来は居住用の建物についても売却などの処分ができるはずですが、認知症の高齢者や精神障害者などにとっては住環境の変化による影響が大きいので、後見人の権限を制約して、家庭裁判所の許可がなければならないとしています(859条の3)。
2)
利益相反行為
後見人と本人の利害が対立する行為については、後見人は自己にとって利益となる反面本人に不利益となる行為を、本人を代理して行ってしまうおそれがあるので、できないことになっています。こうした行為をするときは、後見監督人がいるときは後見監督人が、いないときは特別代理人を家庭裁判所に選任してもらって(860条、826条)、これらの人が本人を代理して、相手方と取引をします。
3)
本人の行為を目的とする契約についての本人の同意
物を買う契約を代理する場合は、本人は代金を支払う義務という、財産的な義務を負うに過ぎませんが、雇用契約のような、本人が行動(労務の提供)することが義務となる場合は、特に本人がそうしたことをさせられるのを納得するかが重要ですので、本人の同意が必要です(859条2項、824条但書)。
(ホ)
家庭裁判所による監督
後見人は包括的な代理権という大きな権限が与えられており、その権限濫用を防ぐために監督をする必要があります。後見人については、家庭裁判所の直接の監督が主なものであり、後述の後見監督人による監督はこれを助けるものとして位置付けられています。なお、後述の任意後見制度では、法定後見制度とは違って、後見監督人による監督が主なものとして位置付けられています。
(a)
後見事務の報告請求、財産目録の提出請求
家庭裁判所は、いつでも、後見人に対して、後見事務の報告を請求でき、また、財産目録の提出を請求できます(863条1項)。
(b)
後見事務の調査、本人の財産状況の調査
家庭裁判所は、いつでも、後見事務を調査することができ、また、本人の財産の状況を調査することができます(863条1項)。
こうした請求する権限や調査する権限によって、家庭裁判所は後見人の後見事務の行われ具合や本人の財産が不当に浪費されていないかをチェックすることで、後見人の権限濫用を防止します。
(c)
必要な処分の命令
家庭裁判所は申立てによって、または職権で、本人の財産管理や後見事務に必要な処分を命じることができます(863条2項)。申立て権者には本人も含まれているので、本人の意思も尊重されることになります。必要な処分というのは、財産管理についてのものの他に、身上についてのものも含まれます。
(d)
精神病院などへの入院の許可
改正する前の民法では、本人を入院させるには家庭裁判所の許可が必要とされていましたが、現行法では削除されました。
(ヘ)
後見人の義務後見人は、善良なる管理者としての義務を意味する「善管注意義務」を負います。この義務は、判断能力が不足する人の保護の場面に限らず、委任契約の受任者などに広く認められている義務です(644条)。
さらに後見人は、身上配慮義務という義務を負います(858条)。本人は認知症の高齢者であったり精神障害者であったりと、肉体的にも精神的にも弱者であるので、医療や介護など、財産的な取引以外に本人の心身に影響を与えるような契約に、後見人は多く関わることになります。そこで、後見人は本人の意思を尊重し、さらに本人の心身の状態、生活の状況に配慮しなければならないことが明確にされています。
(ト)
費用、報酬
(a)
後見の事務の費用
これまでは後見事務の費用について法律では明らかにされていませんでした。もっとも、配偶者法定後見人制度があったので、後見人のほとんどは本人の親族であったため、事実上後見人となった親族が費用を自己負担していました。従って後見事務費用の問題が表に出ることはありませんでした。
しかし、法人や複数の後見人が選べることになったので、親族でない法人や法律、福祉の専門家が後見人になることも今度増えていくと思われ、後見人からの費用請求ということも問題となってくると思われます。そこで、改正によって、後見事務の費用は本人の財産の中から支出することが明らかにされるようになっています(861条2項)。
(b)
後見人の報酬
家庭裁判所は、本人の財産の中から相当の報酬を後見人に与えることができます(862条)。
報酬についてはこれまでも法律の規定はありました。もっとも、報酬についても費用の場合と同じように、これまでは配偶者法定後見人制度があったので、後見人になった親族が報酬を請求することはあまりありませんでした。
しかし、法人や専門家が後見人となることが予想されるので、その職務に見合った対価を適正に支払うことが重要となっていくでしょう。
(チ)
後見人の辞任、解任
(a)
後見人の辞任
後見人は、正当な事由があれば、家庭裁判所の許可をもらって辞任することができます(844条)。後見人は本人を保護する立場にいるので、自由な辞任を許すと本人の保護が薄くなってしまうので、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要とされています。
(b)
後見人の解任
後見人に不正な行為や著しい不行跡や、その他でも後見の任務に適さないと認められる事由があれば、家庭裁判所は後見人を解任することができます(846条)。後見人は包括的な代理権という大きな権限を与えられており、また本人保護を任務とする人ですから、後見人にふさわしくないと認められればいったん選任された後でも辞めさせるべきです。これは申立てによる場合のほか、家庭裁判所の判断による職権ですることもできます。

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