任意後見制度1|任意後見制度の利用方法、当事者

成年後見ガイド

第3

任意後見制度

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任意後見制度とは

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任意後見制度の趣旨

前述のとおり、法定後見制度は従来の禁治産制度、準禁治産制度から後見、保佐、補助制度へと大きく改正されて、本人の意思を尊重し、また保護の実効性のあるものにされました。
しかし、やはり法定の制度ですから、保護の任務をする人の権限は法律により決められており、また保護する人自体も、本人の意思を尊重しつつも基本的には家庭裁判所の判断により選ばれます。
そこで、保護する人の権限も本人が決めることができ、保護する人自体も本人が信頼できる人物を選ぶことができる、任意後見制度が新たに設けられることになりました。この制度の新設のために「任意後見契約に関する法律」(以下、任意後見法と略します。)という新たな法律が定められています。
任意後見というのは、後見事務を委任する人(委任者、本人)がまだ判断能力が十分にあるときに、後見事務を引き受ける人(受任者、任意後見人)との間で後見事務の内容などを契約によって決めておき、本人の判断能力が不足したときに、任意後見が始まるというものです。これは法的には一種の委任契約です。
委任契約に限らずおよそ契約というものは、当事者に十分な判断能力がなければその効力はないので、判断能力が不足した場合に、それ以前に結んでおいた委任契約の効力がなくなってしまうのではないかということが一応疑問となりますが、これは一般に効力は変わらないものと考えられています。
この点、受任者がその権限を濫用した場合に、判断能力がある人同士であれば文句を言うこともできますし、また委任契約を解除することもできます。しかし、委任者の判断能力が低下した場合にはこうしたことができなくなるので、受任者をコントロールする、監督するということを考えなくてはならなくなるという問題点があります。
そこで、基本的には当事者同士の委任契約なのですが、法定後見制度と異なり必ず任意後見監督人を付けなければならない、とか、その契約は公正証書でなければならないといった制約を設けたのが、任意後見制度です。
また、任意後見制度は、本来本人がするべき事務を委任によって後見人にしてもらう制度であり、任意後見人は代理権を与えられることになります。この点、法定後見制度における後見人が与えられた同意権や取消権については、任意後見人には与えられません。
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利用方法

通常想定されるタイプとしては、判断能力が十分にあるときにあらかじめ任意後見契約を結んでおき、その後に時間が経過し、本人の判断能力が低下した時点で任意後見が始まるというものです。
次に、今すぐに保護を受けたい場合は、任意後見契約の内容と同じ内容の委任契約を別に結んでおき、判断能力がある間は委任契約に基づいた保護を受けて、判断能力が低下した時点で任意後見が始まるようにすることで、同じ内容の保護を判断能力低下の前後を通じて継続的に受けるようにすることができます。特に制約はないので、委任契約の受任者と任意後見契約の受任者を別の人にしてもかまいませんが、実際上は同じ人に委任するほうが好都合かもしれません。
さらに、同じく今すぐに保護を受けたい場合として、任意後見契約を結んですぐに任意後見が始まるというパターンもあります。任意後見は、判断能力の低下の度合いが法定後見の場合の補助を受ける人の程度になれば始まるので、現時点でも判断能力は不十分ではあるが契約を結ぶ能力はあるといった場合には、任意後見契約を結んですぐに任意後見が始まるということもありえます。
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任意後見契約の当事者

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任意後見契約によって委任する人(委任者)

委任者について、法律では特に制限は設けられていません。未成年者であっても任意後見契約の委任者になることができます。もっとも、未成年者には親権者、または未成年後見人といった人が保護することが予定されているので、未成年者である間には任意後見は始まらないものとされています。その前段階の、任意後見契約を結ぶことまではできるということです。
また、法定後見制度による保護を受けている人も、任意後見契約を結ぶことができます。確かにすでに法定後見制度によって後見人などが付けられていますが、本人の意思を尊重する見地から、法定後見と任意後見が重複するような場合は原則として任意後見が優先するものとされているので、意味がないということはありません。
さらに、精神障害者や知的障害者について、親が亡くなった後の保護、いわゆる「親なき後」の保護に有効に活用されることが期待されます。
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任意後見契約により委任される人(受任者)

受任者についても、特に法律で制限は設けられていません。本人が自己の意思で自由に信頼できる人を選ぶことができます。
もっとも、任意後見が始まるときに、任意後見人を選任する審判があり、そこで欠格事由にあたればその人は任意後見人になることはできません。いくら本人が自分の意思で選んだとはいえ、およそ他人を保護するという後見事務を果たせないような人物を任意後見人にしてもしかたがないからです。
(イ)
法人
法人が任意後見人となることで、その組織力を生かし、また福祉法人などであればその専門性も生かせるという利点は、法定後見の場合と同じです。そこで、法人が任意後見人となることも認められています。
(ロ)
複数の人
複数の人が任意後見人となれることで、親族と、法律、福祉の専門家が協力してより十分な保護ができるという利点は、法定後見の場合と同じです。そこで、複数の任意後見人も認められています。そして、法定後見の場合は、家庭裁判所が各後見人の権限や、権限を共同して行使しなければならない定めをすることができましたが、任意後見では当事者が特約を登記することで、このような定めをすることができることになっています。

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