具体的にどのような警告、指示説明の不備が「欠陥」といえるかの問題は、製造業者にどの範囲までの警告義務を課すかという問題と裏腹の関係にあります。
警告義務の範囲を決定する際に考慮すべき要素として、次のものが指摘されています。
これによると、被害がより重大になり、被害発生の蓋然性がより高くなり、警告によって危険の明白性がより減少する効果があればあるほど、製造者に警告義務を負わせる蓋然性が高まるといえます。他方、危険が大多数の者にとって明白であればあるほど警告義務は小さくなると考えられます。
しかしながら、具体的判断は、結局、今後の事例の集積を待つしかありません。
自動車事故に際し、後部座席に同乗していた原告が、保護カバーがはずされていた安全ベルトの取付金具で額を打って怪我をしたという事案で、京都地判昭48.11.30(判時738号89頁)は、保護カバーの使用目的は、その位置形状から自動車使用者が容易に知りうるものであるから、自動車製造業者は本件の事故が発生することを予想して、その危険性、危険防止方法を使用者に説明すべき注意義務はないと判示しました。
養鶏用ガス保温装置をプロパンガス販売業者から購入した養鶏専門業者が、右保温装置により火災の被害を被ったという事案で、大阪高判昭49.1.31(判時752号40頁)は、養鶏業者はあらかじめ当該製品を使用することを決定して購入の注文をしたのであるから、プロパンガス販売業者としては、養鶏業者においてプロパンガス器具使用について十分検討済みであるとして、設備の通常の使用方法を説明をするにとどめ、それ以上将来発生するあらゆる事態を考慮して、必要な指示を与えなかったことを責めることはできないとして、販売業者に説明義務の違反を認めませんでした。
前記京都地判のケースは、危険の明白性が考慮され、前記大阪高判のケースは、消費者の知識経験の要素が考慮されたと考えられます。
なお、明白な危険に関するアメリカの判例として下記のものがあり、参考になります。
Fraust v. Swift and Co (1985) は、1才4か月の幼児がピーナッツバター入りサンドイッチを食べたところ、ピーナッツが喉に詰まって原告の子供に脳障害が生じたという事案で、原告がピーナッツバターは窒息の危険があり、4才以下の子供には危険であるとの警告をすべきと主張したのに対し、ピーナッツのこのような危険性は広く知られているから、警告ラベルがなくてもピーナッツバターが不相当に危険な欠陥商品ではないと判示しました。
また、製造業者は、製品につき予想されるミスユース(誤使用)についても、警告義務があると考えられます。消費生活センターの相談例では、幼児が風呂のふたの上に倒れ、重大な火傷を負ったという事例で、風呂のふたは保温目的だけでなく、事故防止の安全を備えた製品でなければならず、風呂の温度分布を考えたうえでの構造、強度でなければならないし、注意事項、禁止事項のみならず、親切表示もすべきであるとし、メーカーから被害者に75万円の賠償がなされました。(神戸市生活情報センター 昭49事例集(1)1200の13)
次に、製造物責任法施行後に、指示・警告上の欠陥が問題とされた裁判例をみていくことにします。
東京地判平12.5.22判時1718号3頁は、化粧品の使用によって顔面の皮膚障害が生じたことを認めたものの、指示・警告上の欠陥がないとして、製造物の欠陥を否定しました。多少長くなりますが、関連した部分を引用すると、「本件化粧品の外箱及び容器の最下部に、本件注意文言を、いずれも枠囲いを施して注記しており、本件注意文言を素直に読めば、本件化粧品は、何人にとっても皮膚障害等のトラブルを全く起こさないような、絶対安全なものではなく、何らかの皮膚障害を引き起こすなど、肌に合わないこともあり得ることを伝えるとともに、そのようなときには本件化粧品の使用を中止するよう、使用方法についても指示しているものと解することができ、右のような注意文言自体から通常読みとれる内容に加えて、本件注意文言の記載の態様も斟酌すると、被告は、本件化粧品の外箱及び容器において、本件化粧品につき予想される危険の存在とその場合の対処方法について、消費者の目につきやすい態様で、端的に記載することにより注意を喚起していたものと評価することができる。そして、本件化粧品の成分のどれかに対して原告のようにアレルギー反応を引き起こす消費者がいたとしても、そのアレルギー反応の出現は、本件化粧品を使用して初めて判明することであるから、本件注意文言のように、本件化粧品が「肌に合わない」場合、すなわち、皮膚に何らかの障害を発生させる場合があり得ることを警告するとともに、その場合は、使用を中止するように指示することは、まれに消費者にアレルギー反応を引き起こす可能性のある本件化粧品の指示・警告としては、適切なものであったというべきである。」と判示して、指示・警告上の欠陥を否定しました。
それに対し、東京地判平15.3.20判タ1133号97頁、判時1846号62頁は、呼吸回路機器及び気管切開チューブについて、いずれも設計上の欠陥を否定しましたが、呼吸回路機器と他社製のチューブを使用すると、呼吸回路に閉塞が生じる危険があることから、接続箇所に閉塞が起きる組み合わせがあることを明示し、そのような組み合わせで使用しないよう指示、警告を発する措置を取らない限り、指示・警告上の欠陥があったとして、製造物責任を認めました。
また、奈良地判平15.10.8判時1840号49頁は、強化耐熱ガラス製食器の破片による受傷事故について、食器自体の設計上の欠陥を否定しましたが、「破壊した場合の態様等について、取扱説明書等に十分な表示をしなかったことにより、その表示において通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法3条にいう欠陥があるというべきである。」と判示して、指示・警告上の欠陥を認めました。
同様に、設計上の欠陥を否定した上、指示・警告上の欠陥を認めた裁判例として、 幼児用自転車に関する広島地判平16.7.6判タ1175号301頁、判時1868号101頁があります。
東京地判平16.3.23判時1908号143頁は、ピアノ用防虫防錆剤について、設計上の欠陥を認めた上、指示・警告上の欠陥も認めました。
以上の裁判例が示すように、設計上・製造上の欠陥と指示・警告上の欠陥とは、相互に補完していく場合もあるのではないかと思われます。特に、それ自体が有用な製品については、一部克服できないマイナス面があるとしても、適切な指示・警告のもとに消費者に使用させていくことが必要な場合が考えられます(輸血用血液製剤については、衆議院及び参議院における附帯決議があることについては、既に述べたとおりです。)。どのような指示・警告があれば適切なものと評価できるかは、今後、製造者に課せられた重要な課題の一つになると考えられます(その他、指示・警告上の欠陥が問題となった事例として、広島地判平16.7.6 判時1868号101頁、富山地判平17.12.20、大阪地判平22.11.17 判時2146号60頁等。)。
以下には警告義務の範囲に関するアメリカの判例を参考までに掲げておきます。
Rumsey v. Freeway Manor Minimax (1968)は、原告の3歳の子供が、タリウムを含んだゴキブリ殺虫剤を摂取し、医師のもとに運ばれたが、医師はタリウムの解毒剤を見付けようとして、貴重な時間を無駄にしたため、致死量の毒が吸収された後になって、胃洗浄が行われたという事案で、被告メーカーは解毒剤が存在しないことを警告すべきであったと判示しました。
DCR, Inc. v. Peak Alarm Co. (1983)は、強盗避け警報機に関して、それを強盗が壊そうとすれば危ないものであり、そのような破壊の危険からシステムを保護する安価な手段のあることについて原告が警告を受けていれば、強盗の被害を避けえたとの原告の主張を認容しました。
Laaperi v. Sears, Roebuck & Co. INC.(1986)は、煙探知機が火災による停電で使用できなくなることについて、被告が警告を怠ったと主張された事案で、「原告は、もしもこの危険についての警告を受けていれば、バックアップ用に電池で動く煙探知機を購入したか、あるいは探知機を自家発電装置につなぐなどの他の予防措置を講じて、電気による火災の際に自己の家族をもっとうまく守る行為をしたであろう」と判示し、この点の警告義務を認めました。