製造物責任の主体-複数責任主体者の責任及び相互の関係

製造物責任マニュアル

製造物責任の主体-複数責任主体者の責任及び相互の関係

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同一の損害につき複数の者が製造物責任の主体となる場合、各責任主体は被害者に対し、どのような責任を負うか。
また、この場合、各責任主体相互間の法律関係はどうなるか。

製造物責任法の規定と基本的な考え方

製造物責任法は、設問のケースに関して特別の規定を置いていません。しかし、同法はその第6条において、「製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責任については、この法律の規定によるほか、民法(明治29年法律第89号)の規定による」と規定し、製造物責任法で特別の規定を置いていない事項については、民法を適用することを明らかにしています。
したがって、設問のケースは、民法により律せられることになります。

被害者に対する責任

(イ)
民法上の不法行為責任は、故意、過失に基づく責任であり、欠陥を責任原因とする製造物責任とは異なります。したがって、設問のケースが民法によって律せられるからといって、同一の被害に対し複数の者が不法行為責任を負う場合の民法の定めが当然に適用されるというわけではありません。
しかし、製造物責任が欠陥という落度に基づく責任であること、製造物責任は製造物責任法成立前は、主として不法行為責任の問題として論じられていたこと、設問の場合、不法行為の場合の定め以外に、これを律する適当な定めを民法中に見出しがたいことなどを考えますと、設問のケースでは、同一の被害に対し複数の者が不法行為責任を負う場合の民法の定めが適用されることになると考えざるをえません。
(ロ)
民法719条1項は、いわゆる共同不法行為に関し、次のように定めています。
「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。」
「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。」
ここで、「共同の不法行為」と認められるためには、
(a)
各主体の行為は、それぞれ個々に不法行為の成立要件を具備していること
(b)
各行為者の行為は、客観的にみて相互に関連共同していることを要します。
(ハ)
これによれば、
(a)
ある損害発生の原因が関連共同して供用されたA製品(甲社製)とB製品(乙社製)の欠陥にあった場合は、甲社と乙社はおのおの被害者に対して全損害を賠償する義務(連帯債務)を負います。
(b)
ある事故が発生したが、その原因が関連共同して供用されたA製品(甲社製)の欠陥かB製品(乙社製)の欠陥のいずれかに存することは明らかであるが、どちらの原因によるものなのかは確定できない場合も、甲社と乙社は、おのおの被害者に対して連帯して全損害を賠償する義務を負うことになります。
(c)
また、製造物責任と他の責任とが競合するときも、各自被害者に対して連帯して全損害を賠償する義務を負います(医療器具の製造販売会社、輸入販売会社の製造物責任、及び医師の雇用主の使用者責任が肯定され、連帯責任が認められた事例として、東京地判平15.3.20 判タ 1133・97、判時1846・62。
自動車の輸入業者の製造物責任と販売会社の債務不履行責任が肯定され、連帯責任が認められた事例として、東京地判平15.5.28 判時1835・94。アスベストを含む建材を製造した複数の製造業者につき、民法719条の共同不法行為の要件が満たされる場合には、製造物責任法3条に基づく責任をも負うことになるとした事例として、東京地判平24.12.5 判時2183・194)。
なお、前掲東京地判平15.3.20 判タ1133・97、判時1846・62の事例で、医師が医療器具の使用上の基本的注意義務に違反して引き起こした事故であるから、医療器具の製造、輸入販売会社は製造物責任を負わないとの主張がありましたが、「医療器具の製造、輸入販売企業には、医療現場における医療器具の使用実態を踏まえて、医療器具の使用者に適切な指示・警告を発して安全性を確保すべき責任があるのであって、たとえ医療器具を使用した医師に注意義務違反が認められるからといって、企業が製造物責任を免れるものではない。」と判示して、この主張を排斥しました。他人の不注意な行為が介在して起きた事故に対し、製造業者等は、どこまで責任を負うべきかという困難な問題が生じますが、結局のところ、製造物の欠陥と事故との因果関係の問題が大きく影響するものと考えられます(中古自動車が走行中に発火、焼損した事案につき、自動車製造会社に製造物責任を求めた事例において、大阪地判平14.9.24判タ 1129・174は、「製造時から相当期間を経過した後中古車として本件車両を取得し、さらに約1年半後本件事故が発生したが、その間、被告以外の第三者による整備・点検が繰り返された事案においては、」製造段階における「欠陥」の存在を推定できないと判示して、自動車製造会社の製造物責任を否定しました)。
(ニ)
諸外国の実務
(a)
米国
米国においては、複数の製造物責任主体の対外的責任については、我が国の民法719条とほぼ同内容の判例法が形成されてきました。すなわち、複数の製造物責任者がいる場合、各製造物責任者は被害者に対し、全損害について賠償責任を負うという法理が判例上形成されてきたわけです。
しかし、最近は多くの州においてこの判例法が修正されてきています。すなわち、州法により、連帯責任となる場合を一定の場合に限定した例があります。例えば ㋑ある被告の損害の発生に対する寄与度が一定の割合以下である場合には、その被告は連帯責任を負わないとか、㋺精神的損害については、連帯責任の原則を取らない等です。また、複数の製造物責任者間の求償を認めていない州で、連帯責任の原則を廃止した例もあります。
(b)
EU諸国(尚、1993年11月「EC」から「EU」に呼称変更)
EC指令5条は、「数人の者が同一の損害について責任を有する場合、それらの者は連帯して責任を負う。」旨を定めました。
これを受けたEC諸国の国内製造物責任法は、これと同趣旨の規定を設けています。例えば、イギリス消費者保護法は、「同一の損害について二人以上の者が本章による責任を有する場合において、それらの者の責任は、連帯責任とする。」旨規定しています(イギリス消費者保護法2条5 )。
また、ドイツ製造物責任法も、「同一損害について複数の製造者が共同して損害賠償責任を負う場合において、それらの者は、連帯債務者としての責任を負う。」旨規定しています(ドイツ製造物責任法5条第1文)。

責任主体相互間の求償権

(イ)
共同不法行為者の一人が被害者に対し、損害の全部を賠償した場合は、その賠償した者は他の共同不法行為者に対し、本来負担すべき責任の割合に応じて求償請求をすることができます(民法442条1項)。
一個の製造物につき、製造物責任の主体が複数いる場合も、同様に、損害賠償をした責任主体は、欠陥作出についての寄与の程度に応じて他の責任主体に対し、求償請求をすることができます。
(ロ)
これに対し、英米のコモンローでは、共同不法行為者間の求償は許されていませんでした。それは、帰責性を有する行為者は他の者に責任の分担を求めることはできないとの考えによるものであったと思われます。
しかし、20世紀に入り、米国の多くの州では、立法によって他の共同不法行為者に対する求償を認めるようになっています。これらの州では、一個の製造物につき複数の者が製造物責任を負う場合も、損害賠償をした責任主体は、他の責任主体に対し、求償請求をすることができると解されています。また、求償請求の限度額の算出の方法としては、各製造物責任者の欠陥作出についての寄与の程度に応じて算定する例と、各製造物責任者の頭割りで算定する例とがあります。
一方、EC指令は、連帯責任者相互間の求償に関しては、各加盟国の国内法に委ねるという建前をとっています(EC指令5条)。
イギリス消費者保護法には連帯責任者間の求償に関する規定はありませんが、ドイツ製造物責任法では、連帯責任間の求償権の範囲は、当事者間の特約によって決定され、特約がない場合には、当該損害に対する各当事者間の関与の程度によって決定されるものとされています(ドイツ製造物責任法5条第2文)。

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