損害の賠償

製造物責任マニュアル

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損害の賠償

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製造物責任主体は、どのような賠償義務を負うか。

製造物責任法の規定

製造物責任法では3条で「他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りではない。」と規定しており、6条で「製造物の欠陥による製造者等の損害賠償の責任については、この法律の規定によるほか、民法の規定による。」としています。
したがって、製造物責任を追及する際の損害賠償の内容については、民法に従うことになります。
不法行為責任における損害については、我が国では財産的損害と非財産的損害に分類し、また、積極的損害(既有財産の減少)と消極的損害(得べかりし利益の喪失)とに分類し、そのいずれをも当該不法行為と相当因果関係にあれば、賠償の対象としてきました。
そこで、我が国の製造物責任の賠償対象も、財産的損害であろうと、非財産的損害であろうと、また積極的損害であろうと消極的損害であろうと、製造業者等はその全てを賠償する義務があります。
ところで、製造物責任法で、「当該製造物についてのみ生じた」損害について、賠償の対象としなかったのは、被害者は契約責任や瑕疵担保責任に基づいて代物請求、修繕請求等を売主に対して行うことができるからとされています。したがって、その製造物を超えて拡大損害が生じた場合は、当該製造物について生じた損害もやはり製造物責任の対象となります。
我が国では、後記のアメリカのような懲罰的損害賠償は認められておりません。その理由は、(a)損害賠償の目的(実際に被った損害のてん補)に合わないこと、
(b)被害者に思いがけない授け物を与える結果となること、(c)賠償額の決定基準がないことなどが挙げられています。

具体的な賠償内容

(イ)
財産侵害
製造物の欠陥により他の財産に損害が生じた場合(例えばテレビの欠陥により出火し、建物や家財道具が消失したような場合)、損害を被った財産が賠償の対象となります。
具体的には積極的損害として修理費ないしは交換価格が賠償の対象となり、消極的損害としては、修理ないし交換までの期間中、得べかりし利益を失った場合は、その利益も賠償の対象となります。
当該製造物のみの損害にとどまったときは、賠償の対象とならないことは前述したとおりですが、拡大損害が生じた場合は、当該製造物の損害も賠償の対象となります。
(ロ)
身体障害
身体に障害を与えたときは、治療費、通院費、付添費、慰謝料等の積極的損害のほか、就労できなかった期間の休業損害や労働能力喪失した場合には、労働能力の低下による収益減についても消極的損害として賠償の対象となります。
(ハ)
生命侵害
ある製造物の欠陥により、ある人の生命を侵害した場合、遺族の固有の損害と、死者について生じた損害ではあるが相続人に相続された損害の2つに分けることができます。
これらを簡単に表にすると、次のようになります。

このうち、逸失利益は死亡当時の年収に稼動可能期間を乗じ、そこから生活費を控除し、更に中間利息を控除することによって算出されます。
そして、これを遺族が取得する場合は、扶養の喪失は賠償の対象からはずれることになります。
(ニ)
その他
なお、(イ)ないし(ハ)のどの場合においても、被害者が弁護士に訴訟を依頼して、損害賠償請求する際、その弁護士報酬の一部又は全部を損害として賠償請求できるとされています。

外国の例

(イ)
アメリカの製造物責任における損害の種類
製造物責任主体は、損害を賠償する義務があるわけですが、この損害につき、アメリカの製造物責任では、次のような分類をしています。
すなわち、損害はまず塡補的損害と懲罰的損害に大別されます。
塡補的損害とは、製品の欠陥に起因して被害者に発生した損害をいい、懲罰的損害とは加害者の行為が特に悪意的と認められる場合に課せられる賠償金であり、通常の損害と異なり「損害なき損害」といわれるもので、加害者への制裁類似行為の再発行防止を目的としています。
前者の塡補的損害の中には、人身損害、財産損害及び経済損失に細分されます。
そして、人身損害はさらに特定損害と一般損害に細分され、特定損害とは当該製品の欠陥によって生じた事故に起因する金銭的損害をいい、一般損害とは、事故によって被害者が死亡したり、負傷した場合の慰謝料などの非金銭的損害をいいます。また、財産損害とは、製品の欠陥に起因して惹起された他の財産に対する破損・損傷などをいい、経済損失とは当該製品に欠陥が存在し、このため予期した利益をあげることができなかったというように、人の生命・身体への損傷や有体物の物理的な損壊の形態が現れないで、被害者の財産状態に生じた損害をいいます。
これらをまとめると、以下のようになります。
(ロ)
EC指令における損害の種類
EC指令では、9条で損害の定義をおいています。
これによると、損害は「人身損害」と「財産損害」に大別されます。
そして、人身損害には死亡・傷害を問わず、また積極的損害のほか、消極的損害も含まれますが、限度額を設けることは認められています。
次に、財産損害は「通常、個人的な使用又は消費が意図されている種類の財物」で「被害者が、主として、個人的な使用又は消費のために使用していた財物」の損害に限られます。
さらに、500ECU(現在はユーロ)以上の損害のみ救済の対象とされています。これは少額の訴訟が氾濫するのを防止するために設けられました。
ところで、EC指令は無形損害(慰謝料その他の精神的苦痛に対する損害、経済損失、懲罰的損害など)について損害の対象から除外し、各国の国内法に委ねています。

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