製造物責任の責任事由-警告、指示説明、不実表示

製造物責任マニュアル

12

製造物責任の責任事由-警告、指示説明、不実表示

集合写真
警告、指示説明、不実表示とは何か。
どのような警告、指示説明の不備、不実表示が製造物責任事由となるか。

警告、指示説明の不備と製造物責任

(イ)
製品の警告、指示説明の不備が製造物責任法の責任事由たる「欠陥」に該当するか否かについては、製造物責任法の法文自体からは明らかではありません。
従来、我国では警告、指示説明の不備の問題はあまり論じられておりませんでしたが、近時判例は製造業者や販売業者に製造物に関する説明、警告義務を課し、右義務違反により消費者、利用者に損害を与えた場合には、不法行為責任を認めるとする傾向にあります。判例は、以下のとおりです。
(a)
カネミ油症事件で、福岡地判昭52.10.5(判時866号21頁)は、カネクロールを食品工業の熱媒体として利用する場合には、これを販売する者は、利用者にその毒性及び金属腐蝕性等の食品の安全性に欠陥を及ぼす恐れのある危険な属性を正しく指摘し、その食品中への混入防止及び混入した食品の出荷防止のために、万全の措置を講ずる必要性を厳しく警告する義務(正確で十分な情報提供義務)を負うべきであるとして、被告カネクロール製造業者の警告義務を認めました。
(b)
肺結核治療のために、ストマイの投与を受けた原告が、その副作用で全聾の被害を受けたというストマイ全聾事件で、東京地判昭53.9.25(判時907号24頁)は、医薬品製造業者は、その製造医薬品につきその副作用等、使用上の注意事項を添付文書等に記載して、使用者たる医師等にその注意喚起すべき薬事法上の義務を有するとして、警告義務を認めています。
(ロ)
上記判例の傾向と製造物責任法の立法趣旨に照らすと、製造物責任法のもとでも、警告、指示説明の不備により、当該製品が通常有すべき安全性を欠くに至れば、製造物責任事由たる「欠陥」になるものと予想されていましたが、施行後の裁判例をみましても、指示・警告上の欠陥があれば、製造物責任法の「欠陥」になることを当然の前提としております。
被害者にとって、警告、指示説明の不備を証明することは、製造上の欠陥、設計上の欠陥を証明することより容易であるため、警告上の欠陥に基づき製造物責任を追及するケースが今後もますます増加するものと考えられます。
(ハ)
アメリカでは、警告義務違反は警告上の欠陥として製品の欠陥状態を作り出しているとの考え方から、警告上の欠陥により消費者、使用者に被害が生じた場合には、厳格責任を適用するのが一般的です(なお、警告上の欠陥に厳格責任を適用することに対しては強力な反対意見もあり、模範統一製造物責任法(UPLA)や連邦議会に断続的に提案されている連邦製造物責任法案においても、過失責任への復帰が提起されており、この点をめぐる議論は今後も継続すると思われます)。

具体的な警告、指示説明の不備と欠陥

具体的にどのような警告、指示説明の不備が「欠陥」といえるかの問題は、製造業者にどの範囲までの警告義務を課すかという問題と裏腹の関係にあります。
警告義務の範囲を決定する際に考慮すべき要素として、次のものが指摘されています。
(a)
被害の重大性
(b)
事故の蓋然性
(c)
説明、警告の可能性
(d)
消費者の知識、経験
(e)
当事者の職業
(f)
回避可能性及び予見可能性

これによると、被害がより重大になり、被害発生の蓋然性がより高くなり、警告によって危険の明白性がより減少する効果があればあるほど、製造者に警告義務を負わせる蓋然性が高まるといえます。他方、危険が大多数の者にとって明白であればあるほど警告義務は小さくなると考えられます。
しかしながら、具体的判断は、結局、今後の事例の集積を待つしかありません。
自動車事故に際し、後部座席に同乗していた原告が、保護カバーがはずされていた安全ベルトの取付金具で額を打って怪我をしたという事案で、京都地判昭48.11.30(判時738号89頁)は、保護カバーの使用目的は、その位置形状から自動車使用者が容易に知りうるものであるから、自動車製造業者は本件の事故が発生することを予想して、その危険性、危険防止方法を使用者に説明すべき注意義務はないと判示しました。
養鶏用ガス保温装置をプロパンガス販売業者から購入した養鶏専門業者が、右保温装置により火災の被害を被ったという事案で、大阪高判昭49.1.31(判時752号40頁)は、養鶏業者はあらかじめ当該製品を使用することを決定して購入の注文をしたのであるから、プロパンガス販売業者としては、養鶏業者においてプロパンガス器具使用について十分検討済みであるとして、設備の通常の使用方法を説明をするにとどめ、それ以上将来発生するあらゆる事態を考慮して、必要な指示を与えなかったことを責めることはできないとして、販売業者に説明義務の違反を認めませんでした。
前記京都地判のケースは、危険の明白性が考慮され、前記大阪高判のケースは、消費者の知識経験の要素が考慮されたと考えられます。
なお、明白な危険に関するアメリカの判例として下記のものがあり、参考になります。
Fraust v. Swift and Co (1985) は、1才4か月の幼児がピーナッツバター入りサンドイッチを食べたところ、ピーナッツが喉に詰まって原告の子供に脳障害が生じたという事案で、原告がピーナッツバターは窒息の危険があり、4才以下の子供には危険であるとの警告をすべきと主張したのに対し、ピーナッツのこのような危険性は広く知られているから、警告ラベルがなくてもピーナッツバターが不相当に危険な欠陥商品ではないと判示しました。
また、製造業者は、製品につき予想されるミスユース(誤使用)についても、警告義務があると考えられます。消費生活センターの相談例では、幼児が風呂のふたの上に倒れ、重大な火傷を負ったという事例で、風呂のふたは保温目的だけでなく、事故防止の安全を備えた製品でなければならず、風呂の温度分布を考えたうえでの構造、強度でなければならないし、注意事項、禁止事項のみならず、親切表示もすべきであるとし、メーカーから被害者に75万円の賠償がなされました。(神戸市生活情報センター 昭49事例集(1)1200の13)
次に、製造物責任法施行後に、指示・警告上の欠陥が問題とされた裁判例をみていくことにします。
東京地判平12.5.22判時1718号3頁は、化粧品の使用によって顔面の皮膚障害が生じたことを認めたものの、指示・警告上の欠陥がないとして、製造物の欠陥を否定しました。多少長くなりますが、関連した部分を引用すると、「本件化粧品の外箱及び容器の最下部に、本件注意文言を、いずれも枠囲いを施して注記しており、本件注意文言を素直に読めば、本件化粧品は、何人にとっても皮膚障害等のトラブルを全く起こさないような、絶対安全なものではなく、何らかの皮膚障害を引き起こすなど、肌に合わないこともあり得ることを伝えるとともに、そのようなときには本件化粧品の使用を中止するよう、使用方法についても指示しているものと解することができ、右のような注意文言自体から通常読みとれる内容に加えて、本件注意文言の記載の態様も斟酌すると、被告は、本件化粧品の外箱及び容器において、本件化粧品につき予想される危険の存在とその場合の対処方法について、消費者の目につきやすい態様で、端的に記載することにより注意を喚起していたものと評価することができる。そして、本件化粧品の成分のどれかに対して原告のようにアレルギー反応を引き起こす消費者がいたとしても、そのアレルギー反応の出現は、本件化粧品を使用して初めて判明することであるから、本件注意文言のように、本件化粧品が「肌に合わない」場合、すなわち、皮膚に何らかの障害を発生させる場合があり得ることを警告するとともに、その場合は、使用を中止するように指示することは、まれに消費者にアレルギー反応を引き起こす可能性のある本件化粧品の指示・警告としては、適切なものであったというべきである。」と判示して、指示・警告上の欠陥を否定しました。
それに対し、東京地判平15.3.20判タ1133号97頁、判時1846号62頁は、呼吸回路機器及び気管切開チューブについて、いずれも設計上の欠陥を否定しましたが、呼吸回路機器と他社製のチューブを使用すると、呼吸回路に閉塞が生じる危険があることから、接続箇所に閉塞が起きる組み合わせがあることを明示し、そのような組み合わせで使用しないよう指示、警告を発する措置を取らない限り、指示・警告上の欠陥があったとして、製造物責任を認めました。
また、奈良地判平15.10.8判時1840号49頁は、強化耐熱ガラス製食器の破片による受傷事故について、食器自体の設計上の欠陥を否定しましたが、「破壊した場合の態様等について、取扱説明書等に十分な表示をしなかったことにより、その表示において通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法3条にいう欠陥があるというべきである。」と判示して、指示・警告上の欠陥を認めました。
同様に、設計上の欠陥を否定した上、指示・警告上の欠陥を認めた裁判例として、 幼児用自転車に関する広島地判平16.7.6判タ1175号301頁、判時1868号101頁があります。
東京地判平16.3.23判時1908号143頁は、ピアノ用防虫防錆剤について、設計上の欠陥を認めた上、指示・警告上の欠陥も認めました。
以上の裁判例が示すように、設計上・製造上の欠陥と指示・警告上の欠陥とは、相互に補完していく場合もあるのではないかと思われます。特に、それ自体が有用な製品については、一部克服できないマイナス面があるとしても、適切な指示・警告のもとに消費者に使用させていくことが必要な場合が考えられます(輸血用血液製剤については、衆議院及び参議院における附帯決議があることについては、既に述べたとおりです。)。どのような指示・警告があれば適切なものと評価できるかは、今後、製造者に課せられた重要な課題の一つになると考えられます(その他、指示・警告上の欠陥が問題となった事例として、広島地判平16.7.6 判時1868号101頁、富山地判平17.12.20、大阪地判平22.11.17 判時2146号60頁等。)。
以下には警告義務の範囲に関するアメリカの判例を参考までに掲げておきます。
Rumsey v. Freeway Manor Minimax (1968)は、原告の3歳の子供が、タリウムを含んだゴキブリ殺虫剤を摂取し、医師のもとに運ばれたが、医師はタリウムの解毒剤を見付けようとして、貴重な時間を無駄にしたため、致死量の毒が吸収された後になって、胃洗浄が行われたという事案で、被告メーカーは解毒剤が存在しないことを警告すべきであったと判示しました。
DCR, Inc. v. Peak Alarm Co. (1983)は、強盗避け警報機に関して、それを強盗が壊そうとすれば危ないものであり、そのような破壊の危険からシステムを保護する安価な手段のあることについて原告が警告を受けていれば、強盗の被害を避けえたとの原告の主張を認容しました。
Laaperi v. Sears, Roebuck & Co. INC.(1986)は、煙探知機が火災による停電で使用できなくなることについて、被告が警告を怠ったと主張された事案で、「原告は、もしもこの危険についての警告を受けていれば、バックアップ用に電池で動く煙探知機を購入したか、あるいは探知機を自家発電装置につなぐなどの他の予防措置を講じて、電気による火災の際に自己の家族をもっとうまく守る行為をしたであろう」と判示し、この点の警告義務を認めました。

警告、指示説明の当事者

警告の主体は、通常は製造業者です。
被警告主体は、通常は一般消費者です。
なお、製造業者と一般消費者の間に職業的消費者が介在し、製造業者が職業的消費者にだけ警告を伝えたという場合に、警告上の欠陥の有無につき問題となる余地があります。ここでは、アメリカの判例を掲げておきます。
処方箋薬や医療機器又は原料として用いられる化学薬品のように専門的知識を有する中間者が消費者(患者、薬品を直接取り扱う従業員etc.)との間に介在する場合に、製造業者は消費者に対して警告する義務を有するか否かが問題となったケースで、Reyes v. Wyeth (1974)は、処方箋薬の警告は市販薬とは異なり、「知識ある中間者」である医師に警告することで十分であるとしました。(ペースメーカにつき Brooks v. Medtronic lnc (1984) も同旨)。
Adames v. Union Carbid Corp (1984)は、自動車製造工場でポリウレタン原料(TDI)の蒸気に長年さらされ慢性気管支炎に罹患した原告がTDIメーカーに損害賠償を求めた事案で、TDIメーカーは雇用主に警告すれば十分であり、雇用主が従業員に警告を伝えてくれることを信頼してよいと判示しました。

警告、指示説明の方法

製造業者、販売業者は、単に警告、指示説明をすればよいのではなく、最も適切な方法を選択しなければなりません。つまり製品の危険性を正確に、はっきりと、強くかつ平易に、また容易に人目を引くよう、現実に伝達されるよう警告すべきです。
また、製造業者は、警告をなすに当たり、その製品が使用される環境というものを考慮に入れなければなりません。
東京スモン事件で東京地判昭53.8.3(判時899号48頁)は、キノホルム剤の副作用の危険性について、能書への記載、医師へのダイレクトメール、プロパーが医師を訪問した際の口頭での伝達、マスコミへの公表を通じて、一定以上服用すればいかなる結果を生ずるおそれがあるかについて明示しなければならないと判示しました。
日本では、まだこの点に関するケースの集積があまりありませんので、参考までに警告、指示説明の方法に関するアメリカの判例を掲げておきます。
Campos v. Firestone Tire & Rubber Co. (1984)は、タイヤの組立てについての警告には、場合によっては、文字を読めない労働者のために、絵や記号などで書かれている必要があると判示しています。
Hubbard-Hall Chem. Co. v. Silverman (1985)は、自ら製造した非常に有毒性の高い殺虫剤が文字を読めない労働者により使用されることを予測できた被告は、警告ラベルに「ドクロマークやそれに匹敵するような記号や形」を併用すべきであったと判示しています。
また、製造業者が製品の安全性を表示した場合には、消費者はこれを信頼し、危険に対する警戒を解いて、誤まった安心感を抱く結果警告が不適切なものとなる場合があります。さらに、警告とともに情緒的な表示(色、絵、姿形etc.)がなされた場合には、警告の効果を減殺し、警告が不適切なものとなる場合があります。
これに関し、東京地判昭45・8・31(判時617号74頁)は、原告がガス湯沸器を利用して入浴中、一酸化炭素中毒になったという事案で、被告の社員は、排気筒を取付けないまま本件湯沸器を使用すれば、一酸化炭素中毒事故が発生することを予見できたのに、原告に対し、窓を開けて換気しないで湯沸器を使用することは危険である点の警告をせず、かえって「排気筒は念のためで、これなしに湯沸器を使用しても心配ない」と返答したとして、被告社員の過失を認めました。
警告の効果を減殺するケースとして、アメリカの判例を参考までに若干掲げておきます。
Mccully v. Fuller Brush Co.(1966) は、台所洗剤の容器上に、「手にやさしい」と書かれていたために、警告が不適切になったと判示しています。
Maize v. Atlantic Ref.Co. (1945)は、液体洗剤のカンに、「煙を吸いこまないでください。換気のよいところでのみお使い下さい。」と注意書きがあったが、これは「安全でクリーン (“Safety-Clean”) 」というよく目立つ言葉のディスプレーで減殺されていると判示しています。
Incollingo v. Ewing (1971)は、医薬品の副作用について、その製造業者が警告をしても、医薬品販売員やセールスマンが「その危険性を過少に語り、一方でその効用、幅広い用途、他の薬には付随するような副作用がないこと等を強調すれば」かかる警告は減殺されると判示しています。
Jonescue v. Jewel Home Shop. Serv.(1973)は、洗剤の有毒性に関する警告が、「白いプラスティックに赤、白、青、アクアマリーンのラベルが貼ってあり、カラフルで無害な外観にみせている」その容器によって減殺されると判示しています。

不実表示

不実表示とは、広告、ラベル、その他によって製品の性能、品質に関する重要な事実について、真実と異なる表示をした場合をいいます。製品の消費者が右の不実表示を信頼した結果、これによって損害を被った場合は、不法行為の成立の可能性が認められます。不実表示が製造物責任法にいう「欠陥」に該当するか否か製造物責任法の法文自体からは明らかではありません。しかし、前記のとおり一定の警告、指示説明の不備は、製造物責任法にいう「欠陥」に該当しますから、これとの均衡上、一定の不実表示は、これにより当該製品が通常有すべき安全性を欠くに至れば、「欠陥」に該当するものと考えられます。
アメリカでは、第2次不法行為リステイトメント402条Bで、動産の販売を業としてなす者が、広告、ラベル等によって自己が売る物品の性能・品質に関する重要な事実について不実表示を公衆に行った場合には、その不実表示を正当に信じた結果、消費者が被った身体的損害について、無過失責任を負う旨規定されております。

目次