製造物責任法の立法過程において前述の被害者が立証責任を負う要件事実について法律上の推定規定を盛り込むべきであるとの意見が一部から出されました。
法律上の推定規定とは、ある法律効果の構成要件事実として必要なある事実の存在を別のある事実の存在から推論する法理をいいます。例えば、A事実があればB事実があると推定する場合がこれに当たります。
法律上の推定の規定があると製造業者等が推定された事実の不存在を証明しない限り、裁判所は推定された事実をその事実の証明なしに認定することができ、被害者原告側の立証活動は、たいへん容易になります。しかし、諸外国においても推定規定を明文でおいている例がないことや我が国の損害賠償を課している他の特別立法でも法律上の推定は行われていないことなどから、製造物責任法では推定規定を採用しませんでした。
推定規定を導入すべきとする意見によると、例えば「欠陥」は「製品の適正使用にもかかわらず、通常生ずべき性質のものでない損害が発生したこと」を立証すれば、推定されるとするものが多いようですが、その前提事実はかなり抽象的といえます。また、因果関係において推定規定をおくと本来責任のないところに責任を創り出す危険があります。
このような理由により推定規定の導入は見送られましたが、事実上の推定(法律によってではなく裁判所がA事実を基礎にして経験則によってB事実を推認することをいいます)は従来どおり可能であり、この弾力的な運用によって被害者の立証負担をある程度緩和することは可能と思われます(事実上の推定について触れた裁判例として、前掲大津地判平8.2.9 判タ918号187頁・判時1590号127頁。)。
なお、製造物責任法には、以下のような附帯決議がなされています。
(衆議院商工委員会)
被害者の立証負担の軽減を図るため、国、地方自治体等の検査分析機関及び公平かつ中立的である民間の各種検査・調査・研究機関の体制の整備に努めるとともに、相互の連携の強化により多様な事故に対する原因究明機能を充実強化すること。
(参議院商工委員会)
欠陥の存在、欠陥と損害との因果関係等について、被害者の立証負担の軽減を図 るため、国及び地方自治体の検査機関、国民生活センターや消費生活センター等、公平かつ中立的な民間検査機関等の検査体制の整備に努めるとともに、相互の連携強化により、多様な事故に対する原因究明機能の充実強化を図ること。