製造物責任の立証責任

製造物責任マニュアル

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製造物責任の立証責任

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立証責任の意義は何か。製造物責任の各要件について誰が立証責任を負うか。

立証責任

立証責任とは、訴訟上事実の真偽が不明の結果、当該法条が適用されないことにより、不利な法的判断を受ける当事者の不利益を意味します。
換言すれば、ある争点について立証責任を有する当事者はその争点について自己の主張する事実を証明できなかった場合において、それによって生じる不利益を甘受しなければならなくなります。
この立証責任を当事者のうちのいずれが負担するかというのかということについては次のような原則があるとされています。
(イ)
ある権利を主張する者は、その権利の発生に必要な事実について立証責任を負う。
(ロ)
ある権利の発生に対する障害事実及び滅却事実は、当該権利を争う者が立証責任を負う。

この原則によると製造物責任を追及する場合、製造物責任の発生要件について被害者たる原告が立証責任を負うことになります。

製造物責任追及者(原告)の立証すべき事実

製造物責任法では3条に以下のような規定を置いています。
(製造物責任)
第3条
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第3項第2号若しくは第3号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りではない。

本条によると、(a)引き渡しを受けた製造物に欠陥があったこと、(b)損害が発生したこと、(c)その損害と欠陥との間に相当因果関係が存在することの3点を製造物責任追及者(原告)は立証しなければならないことになります。
これを民法709条に基づく不法行為責任を追及する場合と比べてみると、民法709条に基づく不法行為責任を追及する場合、(a)故意又は過失、(b)権利侵害、(c)責任能力、(d)損害の発生、(e)相当因果関係の5つの要件について被害者たる原告は立証責任を負うこととされています。したがって、製造物責任の追及においては、責任追及者の立証の負担は、民法709条の場合と比較し、軽減される結果となっています。

製造業者等(被告)の立証すべき事実

製造物責任法では、4条に以下のような規定を置いています。
第4条
前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。

これは、免責事由と呼ばれるもので、製造業者等は本条各号に規定されている事実を証明することによって、製造物責任を免れることができます。本状のうち1号の事実は、開発危険の抗弁と称せられています。
なお、本条以外にも、製造業者等は原告の過失を立証することで、責任の全部または一部を免れることができます(過失相殺)。

欠陥の存在時期の立証責任

原告が立証責任を負っている欠陥とは、いつの時点のものを指しているのかは議論のあるところです。
すなわち、原告は、製造物の引き渡しを受けた時点での欠陥の存在を証明しなければならないのか、損害が発生した時点での欠陥の存在を証明すれば足りるか、という問題です。
EC指令では、被害者が損害発生時の欠陥を証明すれば、製造業者等が流通に置いたときの欠陥の存在は推定されるという構造をとっています。他方、国民生活審議会の報告では、民事訴訟法の原則との整合性から、被害者が流通開始時の欠陥の存在まで立証する責任があるとしていました。
製造物責任法では、被害者が証明すべき欠陥の存在時期について、特に明記しておりませんので、原則どおり原告は「引き渡した時期」における欠陥の存在をにつき立証責任を負うと考えられます。

推 定

製造物責任法の立法過程において前述の被害者が立証責任を負う要件事実について法律上の推定規定を盛り込むべきであるとの意見が一部から出されました。
法律上の推定規定とは、ある法律効果の構成要件事実として必要なある事実の存在を別のある事実の存在から推論する法理をいいます。例えば、A事実があればB事実があると推定する場合がこれに当たります。
法律上の推定の規定があると製造業者等が推定された事実の不存在を証明しない限り、裁判所は推定された事実をその事実の証明なしに認定することができ、被害者原告側の立証活動は、たいへん容易になります。しかし、諸外国においても推定規定を明文でおいている例がないことや我が国の損害賠償を課している他の特別立法でも法律上の推定は行われていないことなどから、製造物責任法では推定規定を採用しませんでした。
推定規定を導入すべきとする意見によると、例えば「欠陥」は「製品の適正使用にもかかわらず、通常生ずべき性質のものでない損害が発生したこと」を立証すれば、推定されるとするものが多いようですが、その前提事実はかなり抽象的といえます。また、因果関係において推定規定をおくと本来責任のないところに責任を創り出す危険があります。
このような理由により推定規定の導入は見送られましたが、事実上の推定(法律によってではなく裁判所がA事実を基礎にして経験則によってB事実を推認することをいいます)は従来どおり可能であり、この弾力的な運用によって被害者の立証負担をある程度緩和することは可能と思われます(事実上の推定について触れた裁判例として、前掲大津地判平8.2.9 判タ918号187頁・判時1590号127頁。)。
なお、製造物責任法には、以下のような附帯決議がなされています。

(衆議院商工委員会)
被害者の立証負担の軽減を図るため、国、地方自治体等の検査分析機関及び公平かつ中立的である民間の各種検査・調査・研究機関の体制の整備に努めるとともに、相互の連携の強化により多様な事故に対する原因究明機能を充実強化すること。

(参議院商工委員会)
欠陥の存在、欠陥と損害との因果関係等について、被害者の立証負担の軽減を図  るため、国及び地方自治体の検査機関、国民生活センターや消費生活センター等、公平かつ中立的な民間検査機関等の検査体制の整備に努めるとともに、相互の連携強化により、多様な事故に対する原因究明機能の充実強化を図ること。

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