遺留分減殺紛争を予防するための対策としては、(イ)遺留分を侵害しない遺言をすること、(ロ)遺留分権利者となる相続人に遺留分の放棄をさせること、(ハ)中小企業経営承継円滑化法の遺留分の特例の適用(ニ)価額賠償の準備をすること、等があります。
遺留分を侵害しない遺言にするには、各相続人に遺留分相当額以上の財産を相続させる遺言にしておく、遺産の一部についての遺言にとどめておく、遺留分を侵害されそうな相続人に対して生前贈与をしておく、等があります。
遺留分の放棄は、本人の申立により行います。相続発生後は勿論、相続発生前でも可能ですが、相続発生前の場合には、家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分の放棄は、遺留分を侵害される相続人の自発的な意思に基づくことが必要であり、従来、現実には困難でした。しかしながら、平成15年度税法改正で新設された相続時精算課税制度(本書第4章第1・4参照)を利用して贈与することによって、遺留分の放棄はたいへん現実的なものとなっています。たとえば、後継者以外の相続人が、被相続人が死亡し相続開始してから遺産として10億円相続するよりも、被相続人が生存している時点において2億円の贈与を受けることを望む場合もありますが、これまでは、贈与税が相続税よりも高額であることを恐れて何の措置もとられずに相続紛争に発展するケースも見受けられました。しかし、上記制度により生前贈与と相続との税制度の障壁が低くなったことに伴い、オーナーと相続人(非後継者)の相互の希望を適切にコーディネートすることによって、オーナーが生前に贈与をし、その際、当該相続人が遺留分放棄の適法な手続をするというかたちで事業承継を成功させる事例が増えてきています。
(ハ)
中小企業経営承継円滑化法(遺留分の特例等について)
平成20年10月1日に中小企業経営承継円滑化法が施行され、後継者が現経営者の生前に①遺留分権利者全員の同意②家庭裁判所の許可③経済産業大臣の確認を得ること等の一定の要件を充足することで、現経営者が生前に後継者に贈与した自社株式について、遺留分の算定対象財産から除外することが可能になりました(除外合意)。
その結果、自社株式を遺留分の対象財産から除外することにより、より多くの預貯金等の財産を後継者に相続させることができます。
この除外合意制度は、遺留分の放棄と異なり、申請権者は後継者であり、後継者が積極的に行動することができるため、遺留分の放棄に代わる遺留分対策として注目されております。
なお、同法には、現経営者から後継者に生前贈与された自社株式を遺留分算定基礎財産に算入する際の評価額を予め固定することもできることが定められております(固定合意)。
遺留分算定の対象となる財産の評価時期は、贈与時ではなく、相続開始時であるため、後継者の努力などにより会社の経営状態が良好となり、贈与時より相続開始時の方が株式の価値が高い場合には、高騰した株式の評価額を前提に遺留分を計算し、後継者が他の相続人に遺留分相当額を支払うことになります。
この結果は,後継者として業績を上げたにも関わらず,遺留分の負担が増大する結果となっており,後継者の経営意欲を損なうことに繋がりかねません。
しかし、固定合意制度を用いることで、例えば、遺留分の算定対象となる自社株式の評価額を贈与時の評価額と固定した結果、贈与時以降の評価額の高騰については考慮されないことになり、遺留分による後継者の負担を減らすことなどが可能となります。
また、同法においては、中小企業の後継者が先代経営者からの贈与、相続または遺贈により取得した非上場株式に係る贈与税・相続税の一部を納税猶予、免除する制度も定められており、同法は事業承継に伴う相続税対策にも有用な法律となっております。
以上の通り、中小企業経営承継円滑化法を利用することにより、遺留分に対応することができます。
原則として、遺留分減殺請求を受けた受遺者・受贈者は、遺留分権利者に対し、贈与または遺贈を受けた財産そのものについて、その遺留分侵害となる割合を返還しなければなりません。贈与(ないし遺贈)財産が金銭のように分割可能なものであれば問題はありませんが、株式や不動産のように、後継者とそうでない者との間に共有関係を持たせたくない財産については、問題が生じます。たとえば、贈与または遺贈を受けた財産が土地であった場合、この土地の遺留分侵害となる割合について遺留分権利者が共有持分をもつことになり、共有物分割の手続をしないかぎり、このような複雑な権利関係が続きます。
このような不都合を回避するのが価額賠償です。価額賠償とは、財産の現物そのものではなく、その価額にあたる金銭をもって、遺留分侵害分を返還することをいいます。遺言により遺留分の返還を価額賠償の方法で行うよう定めておくことができますので、そのような遺言を用意するとともに、価額賠償の弁償金を後継者が支払うことが可能となるようにしておくとよいでしょう。弁償金相当の金銭を特定の相続人に承継させる方法としては、相応の現金・金融資産を遺言により遺贈したり、遺留分減殺請求を受ける相続人を受取人とする一定金額以上の生命保険に加入しておく、等があります。