新株発行には、上記のような手続と注意点があります。これらの手続や法の定める内容に反する新株発行が行われた場合については、新株発行無効の訴えや、新株 発行差止請求等が法定されています。新株発行が無効となれば持分比率が新株発行 前の状態に戻るほか経済的にも多大な影響がありますから、どのような新株発行が 差し止められたり無効とされたりするのか、知っておく必要があります。
会社が法令又は定款に違反し、または著しく不公平な方法によって株式を発行し、これによって株主が不利益を受けるおそれがある場合には、その株主は、会 社に対して新株発行差止請求をすることができます(会社法210条)。
法令違反の発行としては、適法な株主総会の特別決議のない第三者有利発行や、 適法な取締役会の決議のない新株発行、株主に対する新株発行の公告または通知 義務違反による発行等があります。
「著しく不公正な方法による発行」とは、取締役が自己又は第三者の取締役・ 監査役・その他の地位を維持するため特定の者に対して新株を割当て、特定の株 主の持株比率を低下させるような場合や、株主総会において特定の議案を通過さ せるために特定の者に対し新株を割り当てる場合等、会社支配目的で会社の利益 を無視して行う新株発行等がこれに該当します。
新株発行が無効だという主張は、発行の日から6ヶ月以内(譲渡制限会社においては1年以内)に訴訟提起することによってのみ可能です。新株発行差止請求 は発行前の段階における制度ですが、無効の訴は発行後のものであり、取引安全 に与える影響が大きいので、これが認められるための要件はより厳しくなってい ます。判例でも、取引安全への影響も考慮し慎重に検討した上で認める傾向にあ りますが、新株発行差止の仮処分(後記(c))があったにもかかわらず発行された新株発行について、仮処分を無視し強行された事情を重視して新株発行無効を認めたものもあります(最判平 5.12.16)。
また、会社法上のものではありませんが、民事保全法上の「仮処分」の制度に 基づいて、新株発行差止の仮処分の申立を行う方法もあります。
民事保全法は、本案(本来の裁判)訴訟の判決が出るのを待っているうちに判 決で保護されるべき権利が侵害されてしまうことを防ぐため、緊急の必要性ある 場合に限り、通常の裁判で判決が出る前に、一定の手続によって当該権利を保護 する仮の地位を当事者に認める方法を定めています。これが仮処分です。
新株発行の瑕疵を新株発行無効の訴等の形で争い判決をとることもできます が、それでは新株発行が実行されてしまい、そうなると、無効とすれば周囲の影 響も大きいからといって発行無効の訴が認められないことにもつながります。前 述(a)の新株発行差止請求は会社に対して請求する権利ですが、会社がこの請求 を受け入れないときには、この仮処分の制度を使うことも重要になってきます。