従業員持株会

事業承継マニュアル

第2章

事業経営の承継

集合写真
第2

経営権の確立

3

従業員持株会

(1)
従業員持株会の概要
従業員持株会とは、従業員が自社株保有を目的とする団体(持株会)を結成し、会を通じて自社株を保有するものです。自社の株式を保有することで愛社意識が生まれるほか、「がんばって会社の業績を上げれば自分も株主として配当をもらえる」等のインセン ティブが社内の士気を高めたり、従業員の福利厚生に役立つと言われています。
後述のような安定株主対策としての面があるため、会社が規約作成等の組織整備や一 定の奨励金を出す等の援助を行うものが一般的です。非上場の譲渡制限会社では、株価 上昇のメリットを実感することもあまりなく、後述するように退会時に持株会や会社が 買い取るシステムであったりするため、このような会社では従業員の福利厚生という面はあまり期待できません。
支配権確保に最も重要な「株主が誰になるか」という点から持株会をみると、1会員 が直接株主となるものと、②持株会という団体が株主となるものとに大きく二分される と考えてよいでしょう。①は直接参加方式であり、②は民法上の組合方式であることが多いようです。会員が直接株主となる①については、規約で、議決権の行使について理事長に信託的行使するよう定めたり、譲渡しないものとしたり、退会時に持株会や会社 で持株を買い上げること等を定めるのが一般的です。これらの規約による制限は、公序良俗に反しないか問題とされたケースがいくつかありますが、裁判所の判断は、自分の 持株分について理事長に指示をすることができることや、退会時の買い上げ価格が不合 理でなく本人が自由意思で当該規約を了解して入会していることなどを理由として、規約による制限を有効とする傾向にあります。持株会という団体が株主となる②では、株式は持株会の財産になります。この場合、会員は持株会の保有持株について共有持分を取得するだけです。持株会の運営は、規約と民法上の組合(民法 667 条)の論理にそって行われることになります。
(2)
安定株主対策としての利用
従業員持株会が保有している限り、当該株式は第三者に流出することはありません。
また、当該株式の議決権行使は、持株会理事長が行うのが一般です。
民法上の組合方式をとる持株会では、株主は「持株会(理事長名義)」であり、組合財産である株式について個々の会員が権利行使することはできません。そして、民法上の「組合」法理により、脱退時まで自己の株式持分を精算することはできないため、在会 中、会員が自分の株式持分を他に譲渡することもできません。脱退時に持分を引き出す ことも規約で禁じることが一般であり、会員は株式でなく金銭で払戻しを受けます。
直接参加方式であれば、各会員が株主であり、原則として議決権などの株主権を各会員がもちますが、一般的規約では理事長に信託することとし、招集通知等も理事長宛で 行えば足りることと定めています。直接参加方式では規約に従い運営されるわけですが、一般的規約では、退会時まで他への譲渡を禁じ、退会時には持株会か会社へ譲渡するこ とと定めて、外部流出を防止しています。
(3)
注意点等
従業員持株会は、規約等で、外部への譲渡禁止を定め、退会時には持株会ないし会社が当該株式持分を買い取る旨定めていることが一般です。
このような定めは、株式譲渡自由の不当制限や会社支配維持を目的とする不法なものとして問題とされる余地があり、実際に裁判で争われた事例も複数ありました。この点 に関する具体的紛争は、退会時の買上価格が規約上不明確であったり、買上価格が時価より低すぎるとして従業員が不満をもつことから発生します。この問題を回避するため には、まずは、退会時の買取価格等まで規約で明確に定め、会員となる従業員の了解を 事前にとっておくことが必要です。また、当該条項があっても、買上価格が著しく低す ぎるので無効だと主張されることもあります。この点の問題を回避するには、持株会規 約で買上価格を設定するにあたって会員に一定の持株会加入メリットを与え、持株会の 存在意義が全うされたといえるように買上価格を設定しておくべきでしょう。なお、この点は、直接参加方式では規約の有効性として争われますが、民法上の組合方式をとる 場合であっても、結局、退会する会員の持分清算というかたちで、ほぼ同様に問題とな ります。
このほか、従業員持株会は、奨励金を支出する関係から、利益供与の問題に抵触する 可能性もあり、会社としては、規約を整備するとともに、慎重な運営に留意することが求められます。
また、理事長が一括で議決権行使することの可否については、裁判で争われた事例もあり、一応の注意が必要です。これまでのところ、当該持株会の規約では個々の会員が 自分の持株割合に応じて自分の意見を理事長に提出するとされていたため、そのような過程を通じて各会員の意見を反映させることが可能であるとして、裁判所は違法でない との結論を下しています。このように問題となるのは、会社法上、現経営陣が自派の会 社支配を維持するための行為は必ずしも会社(株主)の利益と一致するわけではないの で、そのような目的は法的にみると基本的に不当なものと評価されるためです。現経営 陣が自派の支配を維持するため議決権を行使させる行為は、取締役の善管注意義務等に 反して違法と評価され、当該議決の有効性そのものにも影響を及ぼす可能性があります。 持株会の運営にあたっても、そのような認識をもったうえで、適切な規約を使用することが必要といえます。

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