遺産分割

事業承継マニュアル

第3章

事業財産の承継

集合写真
第1

法定相続による承継

7

遺産分割

相続開始と同時に、被相続人の財産は相続人に移転しますが、相続人が複数ある場合には、前記法定の相続分による遺産の共有関係になっています。そのため、いずれ各々 の共同相続人にどの財産を帰属させるべきかを決める手続が必要となります。
この手続が遺産分割です。
遺産分割は、相続分にしたがって行われますが、相続財産や相続人の状況を考慮せず に相続分だけをもって単純に分割することは不適切です。そのため、遺産分割を行うに は、相続財産の種類・性質や、各相続人の年齢・職業・心身の状態及び生活の状況その 他一切の状況を考慮するよう、民法によって定められています。
(1)
法定相続分と相違する遺産分割の可否
家庭裁判所の審判によって行う遺産分割の場合は、法定の相続分にしたがってなされなければならないと考えられています。
しかし、共同相続人間の話し合いによる遺産分割協議では、法定相続分に拘束されず、相続人らの合意にしたがって自由に分割できます。相続人らの真の合意があるかぎり、 自分の取得分がゼロになる相続人が出る内容であっても有効です。
また、家庭裁判所で行う手続であっても、調停の場合は、共同相続人間の話し合いを ベースとする性質上、共同相続人の合意により比較的柔軟な対応がなされています。
(2)
遺産分割の種類
(イ)
現物分割
個々の財産を、その現状のまま各相続人に配分するかたちの分割です。
(ロ)
代償分割
相続人の一部にその相続分を超える財産を取得させ、相続分を超える部分に関し ては、他の相続人に対し金銭その他のもので補償させるかたちの分割です。
(ハ)
換価分割
遺産を換価処分し、代金を相続人間で分配するかたちの分割です。
(3)
遺産分割の方法
(イ)
協議による遺産分割
共同相続人全員の合意によって遺産を分割する方法で、遺産分割の方法のなかで 最も一般的なものです。共同相続人は、遺言で分割を禁じられている場合以外、いつでも、その協議により遺産分割を行うことができます。
遺産分割協議は、法律上、当事者とされている者すべてによって行い、共同相続人全員の合意をもって成立させなければなりません。当事者とされているのは、各 共同相続人、相続人と同一の権利義務をもつ包括受遺者、相続分の譲受人、包括遺 贈の場合の遺言執行者です。この点は、遺産分割の有効・無効を左右する重要事項 であり、充分な注意が必要です。
遺産分割協議が成立した場合、遺産分割協議書を作成するのが一般です。不動産 の登記等、実印や印鑑証明書の添付を求められる手続もありますので、遺産分割協 議書は、相続人全員がそれぞれ署名するとともに実印を押印しておくほうがよいで しょう。
(ロ)
遺言による遺産分割
遺言で、遺産分割の方法を定めたり、これを定めることを第三者に委託することができます。たとえば、「妻に自宅の土地建物を、長男に田畑を、長女に現金100 0万円を相続させる」というように、各相続人の取得すべき遺産を具体的に定める ことです。現物分割・代償分割・換価分割のいずれによるべきかの指定をすることもできます。
(ハ)
調停による遺産分割
共同相続人間で遺産分割協議が調わないとき(分割をするかしないかにつき意見が一致しない場合も含むと解されています)や、協議をすること自体ができないと きには、各相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができます。
調停は、当事者である共同相続人の合意に基礎をおくものであるため、性質的に は協議分割とみることができ、必ずしも法定相続分あるいは指定相続分に従う分割 である必要はないと考えられています。また、相続債務、遺産からの果実、遺産の 管理費用及び相続税等の清算を調停手続のなかで行う等、調停における運用は柔軟 になされています。
(ニ)
審判による遺産分割
共同相続人間で遺産分割協議が調わないとき(分割をするかしないかにつき意見が一致しない場合も含むと解されています)や、協議をすること自体ができないと き、各相続人は、家庭裁判所に対して、調停でなく審判を請求することもできます。
また、遺産分割の調停を申し立てたが調停が不成立となった場合、調停申し立て 時に審判の申立があったものとみなされ、審判手続に移行します。
遺産分割の審判では、家庭裁判所の審判官(裁判官)が、前記の分割基準にした がって、各相続人の相続分に反しないよう、分割を実行することになります。金銭 の支払、物の引渡、登記義務の履行その他給付を命ずる確定した審判により、相手 が任意に応じない場合の強制執行もできます。
(4)
遺産分割と株式
相続株式について株主権を行使するには、株主名簿の名義書換が必要です。ただし、定款により譲渡制限を設けている会社においても、相続の場合は、他への譲渡と異なり 取締役会の承認手続は不要です。
(イ)
権利行使のための手続……遺産分割前の場合
株式は、遺産分割が完了するまでは、複数の共同相続人の準共有状態にあります(準共有とは、権利を共有しているという意味の用語です)。そのため、遺産分割未 了の間に株主権を行使したい場合、どのような方法をとるべきかが問題となります。
この場合、共同相続の旨を株主名簿に記載した上で、共同相続人間で権利行使者 を1名選任し(会社法106条)、これを会社に通知しなければなりません。権利行 使者を指定する方法については、共有持分の価格に従いその過半数をもって決する 旨述べた平成9年の最高裁判決があり、これにしたがって相続人間で権利行使者を 指定することになります。通知の方法には特に定めはありませんが、後日の紛争を 防ぐには、客観的証拠の残る配達証明付内容証明郵便のようなものがよいでしょう。
株主名簿は会社が管理するものですので、その名義を書き換えたり、共同相続の 旨を記載し権利行使者に権利を行使させたりするうえで要求される手続は、各会社 の判断です。必要書類も各会社の内部規定によりますが、株式については、権利者 であることを主張するのに株券の所持が必要とされている関係で、株券が必要とさ れるほか、戸籍謄本、共有株主代表者届、相続による名義書換請求書、(代表者の) 株主票を徴求するのが一般的な取扱といってよいでしょう。
なお、名簿書換は会社の判断事項ですが、正当な理由がないのに名簿書換の請求 を拒絶したり不当に遅滞したりした場合には、会社が名簿書換を了していなくても、 当該請求者が株主としての権利行使を認められると解されています。
(ロ)
権利行使のための手続……遺産分割後の場合
この場合は、遺産分割により当該株式を相続することに決まった相続人につき、その者が相続した株数の株主であるという名簿書換をすることになります。
(5)
遺産分割未了の場合の問題点
(イ)
オーナーが死亡時に代表取締役であった場合
代表取締役は会社の必要機関であるため、死亡によって代表取締役が欠ければ、取締役会決議により後任の代表取締役を選任しなければなりません。
しかし、取締役会を開くことができない場合があります。たとえば、株式会社の 取締役会の定足数が3名であるところ、代表取締役の死亡によって取締役が2名しかいなくなってしまえば、取締役を開くことができません。このような場合には、 利害関係人の請求により一時的に代表取締役の職務を行うべき者(仮代表取締役) を選任することになります。
現存取締役の人数が定足数以上であったとしても、内紛により取締役会が開けな い場合にも上記と同様となります。
しかし、仮代表取締役の制度は、短期間における職務代行の定めに過ぎず、相続 争いから波及して会社運営の主導権をめぐる争いとなった場合を想定したものでは ありません。仮代表取締役に選任された者が専断的会社運営をするおそれもないと はいえず、また、社内の内紛を抱えながら会社の舵取りをするという大変困難な役 割を全うできるかは、選任された者の能力・手腕の如何にかかってくるという点、 なかなか難しいものがあります。
(ロ)
取締役選任、その他総会決議事項の停滞
取締役の選任には、株主総会(株式会社の場合)や社員総会(有限会社の場合)における有効な決議が必要です。しかし、遺産分割未了の間の相続株式は共同相続 人全員の準共有状態なので、そのままでは権利行使ができません。共同相続人で協 議し権利行使者を定めて会社に通知すれば、権利行使ができるようになりますが、 この場合、権利行使者として定められた1人だけが相続株式(出資口)全体の議決 権を行使します。
権利行使者を誰にするかは各相続人の持分割合にしたがって決めることとされて いますが、協議が難航するなどして上記手続が遅れれば、その間、取締役選任その他株主総会の決議が必要な事項について後継者が権利行使を行うことができない状 態となり、会社経営は滞ってしまいます。このような状況で定足数を満たせない場 合には、定時株主総会で決議する決算の承認等もできず、決算を前提とした配当や 申告もできないこととなって、非常に困った事態となります。
(ハ)
その他、事業経営上の弊害
相続株式(出資口)の分割がまとまらないことによって、上記のとおり会社の経営自体が不安定な状態となれば、メインバンクとの関係の悪化、対外的信用の低下、 社内の士気の低下、等の弊害が生じるおそれがあります。また、各相続人の人的環 境によっては、これを機に会社を乗っ取ろうとする者が現れることもありえます。

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