損害賠償請求ができる人、相手方1

交通事故損害賠償請求ガイド

交通事故損害賠償請求にあたってはこれに関する法律をひととおり理解しておくことが非常にたいせつです。また損害額の算定基準として自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準と大別して三つの基準があることを理解しておくことも、被害者が満足のいく賠償をえるために重要です。
交通事故損害賠償請求に必須の法律のこれら知識を詳しくやさしく解説します。損害賠償請求ができる人、損害賠償請求の相手方、後遺症が生じた場合や死亡事故の場合など損害賠償請求の内容、自賠責保険や任意保険などの自動車保険、交通事故損害賠償請求紛争の解決方法などをわかりやすくご説明します。

第1

交通事故の被害者の損害賠償請求

損害賠償請求ができる人

(1)

被害者本人

交通事故の被害者は、その加害者等に対し、原則として、その損害を賠償してもらうことができます。これは、不法行為による損害賠償義務(民法709条)が加害者に課せられているためです。損害を賠償されるべき者の筆頭に挙げられるのが被害者本人であることは言うまでもありません。
(2)

被害者の親族等

被害者の親族が、加害者等に対し、損害賠償請求をすることができる場合があります。例えば、交通事故で被害者本人が死亡してしまったような場合、その父母、配偶者、子その他被害者との間にこれらの者と実質的に同視することのできる身分関係があり、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者(例えば、被害者の夫の妹について認めた例)が慰謝料の賠償を請求することができます。ここでの損害賠償請求は、(3)に述べる、被害者の損害を相続した権利ではなく、近親者自身の固有の損害として法律上認められるものです(民法711条)。また、被害者が死亡した場合でなくても、死亡した場合と同程度の精神上の苦痛を受けた場合には、民法709条及び710条に基づき、被害者の父母や配偶者は自身の固有の損害として慰謝料の賠償を請求することができるとされています。
(3)

被害者の相続人

被害者が死亡した場合は、その相続人が被害者本人の損害賠償請求権を相続し、これを行使することができます。相続人には被害者の子である胎児を含みます。子がないときは父母、それもないときは祖父母さらに兄弟姉妹となります。配偶者は常に相続人になります。
(4)

その他

被害者の治療費や葬儀費を立て替えた人は、被害者の親族等や相続人でなくても、負担した金額について加害者に対して損害賠償を請求することができます。
2

損害賠償請求の相手方

(1)
運行供用者
(イ)
運行供用者の責任
「運行供用者」とは、自動車の運行を支配し、運行による利益を享受する者をいいます。すなわち、自動車を自ら運転し、自動車を直接支配する場合のみならず、他人に運転させて、他人の運転を通じて自動車を間接的に支配する場合を含みます。
そして、運行供用者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償しなければなりません(自動車損害賠償保障法3条)。これを運行供用者責任といいます。
ただし、(a)自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、(b)被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと、ならびに、(c)自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明すれば、この責任を免れることができます。
これは、人身事故について、加害者は、上記(a)から(c)の全てを立証しない限り、事故によって被害者に生じた損害を賠償しなければならないとするもので、被害者救済の観点から、被害者の立証の負担を軽くしたものです。
(ロ)
運行供用者責任の要件
(a)
「運行」とは
自動車損害賠償保障法上、「運行」とは、「人または物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」とされています(自動車損害賠償保障法2条2項)。
(b)
「当該装置」とは
「当該装置」は、1)走行装置としての原動機、2)ドア等の自動車を構成する各部分、3)特殊自動車の装置、例えば、クレーン、フォーク、ショベル、ミキサー等が含まれるとされています。
(c)
「用い方に従い用いる」とは
学説上争いはありますが、判例上、上記の「装置」の全部または一部をその目的に従って操作することをいうものとされています。したがって、原動機による移動走行のみならず、停車中のドアの開閉やクレーンの操作なども「用い方に従い用いる」にあたることとなります。
(d)
「運行によって人の生命または身体を害した」とは
学説上争いがありますが、上記のような「運行」による、「人の生命または身体」に対する被害の発生が通常あり得ないことではないという程度の因果関係(相当因果関係)があることをいうとされています(判例)。
(e)
「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるか否かの具体例
1)
積載していた荷物が、走行中に落下して、歩行者に命中した場合について、「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるとした裁判例があります。
2)
エンジン故障のために、ロープで牽引されている貨物自動車の荷台から8歳の児童が飛び降りて死亡した事故について、「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるとした判例があります。
3)
クレーンを操縦中に、クレーンが高圧電線に接触したため、作業員が感電死した事故について、「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるとした裁判例があります。
4)
貨物自動車が駐車した状態で、フォークリフトによる荷降ろし作業を開始したところ、走行中の自動車がフォークリフトのフォークに衝突した事故について、貨物自動車の「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたらないとした判例があります。
(ハ)
「保有者」とは
「保有者」とは、「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう」とされています(自動車損害賠償保障法2条3項)。「使用する権利」とは、所有権、賃貸借、使用貸借その他いかなる法律関係であるかを問わず、法律上の正当な使用権をいいます。
保有者が運行供用者責任を負う場合、その保有者の損害は自動車損害賠償責任保険によって填補されます(自動車損害賠償保障法11条1項)。
(ニ)
運転助手
運転助手とは、自動車の助手席に同乗して、安全確認等により運転手の運転を補助する者をいいます。自動車損害賠償保障法上、このような者も「運転者」とされています(自動車損害賠償保障法2条4項)。運転助手は運行共用者にはあたりませんので、運行共用者責任(自動車損害賠償保障法3条)を負うことはありませんが、運転助手が安全確認を怠る等、事故の発生および被害の発生につき運転助手にも過失があれば、民法上の一般不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償責任を負うことになります。運転助手が一般不法行為責任を負うかどうかは、事案ごとに個別具体的事情によって判断されることになります。
自動車損害賠償責任保険は、保有者の運行共用者責任が発生した場合には、保有者のみならず、運転者にも適用されます(自動車損害賠償保障法11条1項)。したがって、運転助手が被害者に対して損害賠償を支払った限度で、保険会社に対して保険金の支払いを請求することができます(自動車損害賠償保障法15条)。
(ホ)
自動車損害賠償保障法3条の「他人」とは
自動車損害賠償保障法3条によれば、自分のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償しなければなりません。
そして、「他人」とは、運行共用者、運転者、運転補助者以外の者をいいます。これらの者は自ら事故を生じさせた者であるため、損害賠償請求権を取得できる立場にはないからです。したがって、運行共用者、運転者、運転補助者に該当しなければ、これらの者の同乗の家族、好意で(無償で)同乗させてもらった人、会社の使用人も「他人」といえることになります。
ところで、運行共用者が複数いる場合の運行共用者を「共同運行共用者」といいます。そうすると、この共同運行共用者は、当然に「他人」にはあたらないことになりそうです。しかし、共同運行共用者相互の間では、一方の共同運行共用者(A)が他の共同運行共用者(B)との関係では「他人」であるとして、Bに対して運行共用者責任を追及できないかという問題があります。以下のように3類型に分けて考察されますが、要は、共同運行共用者間で自動車の運行に対する支配が同等の場合には「他人」性を否定し、責任を追及する側よりも追及される側の方が自動車の運行に対する支配が直接的・顕在的・具体的である場合には「他人」性を肯定する傾向にあります。
(ヘ)
複数の運行供用者が同乗している場合(同乗型)
共同運行共用者が2人いる場合、2人ともが事故を起こした自動車に同乗している場合です。この場合に、一方(A)が他方(B)に対して運行共用者責任を追及できるかにつき、判例は、「BがAの指示を守らなかった等の特段の事情がある場合でない限り、BにとってAは他人とはいえない」として、否定しています。
(ト)
同乗していない運行供用者がいる場合(非同乗型)
共同運行共用者が2人いる場合に、1人が事故を起こした自動車に同乗していない場合です。例えば、会社所有の自動車を会社の取締役が、会社の従業員に運転させていたところ、その従業員が運転を誤って事故を起こし、その取締役が怪我をした場合、会社とその取締役が共同運行共用者になります。この場合に、取締役(A)が会社(B)に対して運行共用者責任を追及できるかにつき、判例は、「Bによる運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、Aによる運行支配ははるかに直接的、顕在的、具体的である」として、これを否定しています。
(チ)
同乗している運行供用者と同乗していない運行供用者が混在する場合(混在型)
共同運行共用者が3人いる場合に、そのうちの2人は事故を起こした自動車に同乗していますが、残りの1人は同乗していない場合です。例えば、Aの父であるBが所有する自動車を、AがCに運転させていたところ、Cが事故を起こしてAが怪我をした場合です。この場合、AのBに対する関係では上記(ヘ)と、AのCに対する関係では上記(ト)と同様の結論となります。
(2)

使用者

(イ)
使用者責任とは
使用者(会社)は、事業の執行について被用者(従業員)が事故を起こした時は、その責任を負わなければなりません。これが使用者責任です(民法715条1項)。従業員が会社の利益の為に不法行為を起こしてしまったのに、会社に全く責任を負わせないのは不合理だからです。また、資力のない被用者では被害者に十分な賠償ができないため、被害者保護の為に使用者に責任を負わせようという目的もあります。
(ロ)
従業員が事故を起こした場合の会社の責任
(a)
使用者責任
実務上、被害者が、1)従業員の不注意で起こした事故により被害を被ったこと、および、2)客観的にみて、従業員が業務として社用車を運転していたことを証明すれば、会社は従業員が起こした交通事故による損害を賠償しなければなりません。無断使用の場合であると、私用車の場合であるとを問わず、使用者責任を追及することができます。
なお、法律上は、イ.会社が従業員の採用およびその従業員の業務の監督について相当注意していたこと、または、ロ.相当注意していたとしても、別の原因により損害を避けられなかったことを会社が証明した場合には、会社は責任を免れることができるとされていますが、実務上、会社がこれらを証明して責任を免れるということはほとんどありません。
(b)
運行共用者責任
会社が「自らのために自動車を運行の用に供するもの」(運行供用者)にあたれば、人身損害については、会社は使用者責任のみならず、運行供用者責任をも負うことになります(自動車損害賠償保障法3条)。
そして、従業員が営業中に社用車で交通事故を起こした場合、会社は文字通り運行共用者にあたり、運行供用者責任を負います。
他方、従業員が業務時間外に無断で社用車を使用していた場合には、必ずしも運行供用者にあたるとはいえません。この場合は、次のような事情を総合的に考慮して、第三者の目には「会社のために自動車を運行している」と見えれば、運行供用者責任を負うことになるとされています。
1)
鍵の管理が十分でなかったとか、事故を起こした従業員が鍵を管理していた等、社用車を使用されることとなった事情
2)
業務とは全く関係ないときの使用であったか、あるいは、業務の前後であったか等、社用車の使用と業務との関連性
3)
日常的にその従業員が自動車を業務として運転していたか否か
4)
それまでに無断での私用運転が行われていたか
なお、従業員の私用車であっても、会社の業務に使用していた場合には、会社は運行供用者責任を負うことになります。
(3)

下請人が事故を起こした場合の元請人

下請人が起こした自動車事故についての元請人の責任としては、民法上の使用者責任(民法715条、716条)と、さらに、人身事故の場合には運行共用者責任(自動車損害賠償保障法3条)が考えられます。
(イ)
使用者責任
元請人は、下請人に対する注文または指図に不注意があったときは、下請人がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条、716条)。この場合、被害者は、元請人の下請人に対する注文または指図に不注意があったことを立証しなければなりません。
(ロ)
運行共用者責任
下請人が作業を行うにあたって、元請人が配車の指図をし、随時現場作業の状況を見回り、運搬途中の監督をするなどして、下請人の運転を監督していた場合や、下請人が元請人の指示するコース、スケジュールに従い、必ず元請人の係員の立会いと荷物の確認を受けて、荷積み・荷下しを行うなど、専ら元請人の指揮監督に服して業務に従事していた場合に、元請人の運行共用者責任を認める判例があります。
他方、元請人が下請人に自動車を売却した後も、自動車検査証の使用者や自賠責保険の契約者が元請人の名義のままとなっていたものの、下請人が代金を完済すると同時にこれらの名義を変更する予定であったこと、下請人が専ら元請人の指揮監督に服するというような関係がなく、出資・役員派遣・事務所などの営業財産の貸与・自動車保管場所の提供等の事実がなく、両者間に密接な一体性がない場合に、元請人の運行共用者責任を否定した判例があります。
要するに、下請人が元請人の従業員と同様の立場にあると見られるような関係にあるとか、出資・役員派遣・営業財産の貸与・自動車保管場所の提供等の両者間の密接な一体性があるような場合であって、下請人による自動車の運行を元請人が間接的に支配管理しているといえる場合に、元請人の運行共用者責任が認められる傾向にあるといえます。
(4)

運転代行者が事故を起こした場合の依頼者

運転代行業者が人身事故を起こした場合、一般に、依頼者本人も事故の相手方に対して運行共用者責任を負うものとされています(自動車損害賠償保障法3条)。
ただし、運転代行業者は、平成14年の道路交通法改正により、都道府県公安委員会の認可を受けること、安全運転管理者の設置、料金を営業所に掲示し利用者に説明すること、保険に加入すること等が義務づけられ、さらに、平成16年の道路交通法改正により、運転を代行するには2種免許が必要となり、タクシーと同様の法的規制が及びつつあるといえます。
そのため、今後は、タクシーの乗客がタクシー運転手の起こした事故について運行共用者責任を負わないとされているのと同様に、運転代行業者が起こした事故について依頼者本人は運行共用者責任を負わないようになるかもしれません。

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