消極損害の範囲2

交通事故損害賠償請求ガイド

交通事故が発生したときの措置、損害賠償責任、損害賠償の範囲、遅延損害金と時効、自動車保険、紛争の解決方法、刑事責任という7つの主題について、交通事故損害賠償請求のQ&Aをご紹介します。

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損害賠償の範囲のQ&A

(3)

消極損害

(ニ)

逸失利益とは

Q:
自動車事故で死亡または後遺症が残った給与所得者の逸失利益はどのように算定されますか?
A:
1.
給与等収入
(1)
逸失利益の算定は、事故当時の被害者の労働の対価としての収入を基礎とするのが原則です。給与所得者の場合、勤務先からの源泉徴収票等により証明することになります。
(2)
逸失利益にカウントされる収入には、本給のほか、扶養家族手当等の諸手当(ただし、通勤手当等の実費手当は、労働の対価ではないため含まれません)、賞与も含まれます。
(3)
現実の収入額が賃金センサスの平均賃金額を下回る場合、原則として、現実の収入額を基礎とします。しかし、およそ30歳未満の若年の給与所得者であって、将来、賃金センサスの平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が高い場合には、賃金センサスの平均賃金を基礎とした裁判例があります。
2.
昇給
将来の昇給については、被害者の勤務先に昇給規定等があり、それに従って昇給する可能性がある場合には、昇給を考慮して逸失利益を算定されます。昇給規定がない場合にも、将来昇給する可能性が認められる場合には、将来の昇給を考慮した裁判例があります。
3.
ベースアップ
実務上、口頭弁論終結時までに行われたベースアップについては逸失利益の算定にあたって考慮されますが、将来のベースアップについては、不確定で予測し難いことから考慮されないのが通常です。
4.
退職金・恩給・年金
勤務先に退職金規程がある場合、死亡時に勤務先から支給された退職金と、定年まで勤務すれば支給されていたであろう退職金額との差額が逸失利益となります。  恩給や厚生年金等の各種年金も逸失利益とされます。
5.
定年から67歳までの期間の逸失利益
通常、企業では60歳前後が定年とされていますが、この場合でも、定年後67歳までは就労可能なものとして逸失利益を算定します。ただし、定年後の逸失利益は、減額されるのが通常です。定年から67歳までの期間は、
(1)
賃金センサスの年齢別平均賃金によって算定した裁判例と、
(2)
退職時の収入の一定割合によって算定した裁判例があります。
(ホ)

社長の勤務不能による会社の逸失利益

Q:
従業員のいない家族経営の会社の社長が自動車事故により、数か月間入院することとなり、その間会社の営業活動が停止したため、会社の収益が大幅に減少した場合、会社はこの損害を加害者に対して賠償請求することはできますか?
A:
会社とその社長である被害者とが、実質的には同一体のものと認められる関係にあれば、社長である被害者が事故により入院し営業活動をできなかったことによる会社の損害(休業損害)につき会社の加害者に対する賠償請求が認められる可能性があります。
この点、会社が社長に支払った役員報酬につき、入院中は100%、退院後の336日間は25%の限度で、会社の損害として賠償を認めた裁判例があります。
(ヘ)

違法収入と逸失利益

Q:
自動車事故の被害者が違法行為により収入を得ていた場合、その収入によって算定した逸失利益を賠償する必要はありますか?
A:
1.
自動車事故の被害者が違法行為により収入を得ていた場合に、その収入により算定した逸失利益の賠償が判決によって認められるとすれば、裁判所が違法行為を是認することになりかねません。他方、違法行為といっても、犯罪を構成するものから行政法規違反にすぎない場合までさまざまであり、違法の程度が軽微であって、必ずしも逸失利益の賠償を一切否定するまでには至らない場合もあります。
裁判実務上も、法律の趣旨や社会的影響等の事情を考慮して、違法性の程度が低い場合は逸失利益の賠償を認め、違法性の程度が高い場合は賠償を否定しています。
2.
窃盗、詐欺、賭博、麻薬の売買等の犯罪行為による収入が逸失利益として認められることがないことはもちろんです。
3.
自動車事故の被害者が、無免許で自動車運送業を行っていた場合に、
(1)
休業による逸失利益の賠償を肯定した最高裁判例、
(2)
逸失利益の賠償を全面的に否定する下級審裁判例、
(3)
逸失利益の賠償を全面的には否定しないものの、減額して肯定した下級審裁判例、
(4)
逸失利益としての賠償は否定しつつ、慰謝料の算定にあたり逸失利益を考慮した下級審裁判例
等があります。
4.
自動車事故の被害者が、無免許であん摩業を行っていた場合に、逸失利益の賠償を否定した下級審裁判例があります。医師法や、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」は、医療やあん摩等の行為が国民の生命・身体に重大な影響を及ぼすものであることから、免許制とし、厳格な要件を定めています。このような法律の趣旨からは、無免許者に対しては逸失利益の賠償を認めないとする見解が有力です。
5.
自動車事故の被害者がいわゆるソープランド嬢の場合に、
(1)
逸失利益を全額否定した下級審裁判例と、
(2)
同世代の平均賃金程度の収入を逸失利益として認めた下級審裁判例
があります。

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