過失相殺の範囲1

交通事故損害賠償請求ガイド

交通事故が発生したときの措置、損害賠償責任、損害賠償の範囲、遅延損害金と時効、自動車保険、紛争の解決方法、刑事責任という7つの主題について、交通事故損害賠償請求のQ&Aをご紹介します。

3

損害賠償の範囲のQ&A

(7)

損益相殺

(イ)

過失相殺とは

Q:
自動車事故の被害者にも落ち度があった場合、加害者は被害者に生じた損害の全部を賠償しなければならないのでしょうか?
A:
1.
過失相殺
被害者に過失(落ち度・不注意)があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができるとされています(過失相殺。民法722条2項)。
あくまでも「できる」とされているため、過失相殺をするかどうかは裁判所が自由に判断します。したがって、場合によっては、被害者の過失を全く考慮せず、加害者が被害者に生じた損害の全部を賠償しなければならないということもあり得ます。
2.
過失相殺のパターン化
被害者に生じた損害の何割を加害者に賠償させるか(過失相殺の割合)は、まさにケースバイケースですので、具体的な事案における具体的な過失相殺割合は、弁護士に相談して、最終的には裁判で決着をつけることになりますが、実務に基づいて、自動車事故の類型毎に過失相殺割合をパターン化した『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(判例タイムズ社東京地裁民事交通訴訟研究会編)が作成され、基本的には実務上の参考にされています。
(ロ)

被害者側の落ち度と自賠責保険

Q:
被害者側に落ち度があっても、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)から保険金は全額支払われるのですか?
A:
1.
自賠責保険と過失相殺
自賠責保険は被害者の保護を目的とする制度ですから、被害者の保護を優先させるため、自賠責保険金の支払にあたっては、被害者が加害者に対して損害賠償を請求する場合と全く同じように過失相殺が行われることはありません。
2.
重過失減額
(1)
被害者の過失割合が7割未満の場合には、保険金は一切減額されません。
(2)
後遺症を除く傷害事故の場合には、被害者に7割以上10割未満の過失がある場合には、全損害額が保険金額に満たない場合には全損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から、また、損害額が20万円未満の場合はその損害額から、減額により20万円以下となる場合は20万円から、2割減額された金額の保険金が支払われます。
(3)
後遺症または死亡事故の場合には、被害者に7割以上8割未満の過失がある場合には、全損害額が保険金額に満たない場合は全損害額から、保険金額以上となる場合は保険金額から2割減額された金額の保険金が支払われます。
(4)
同じく、後遺症または死亡事故の場合で、被害者に8割以上9割未満の過失がある場合には3割、9割以上10割未満の過失がある場合には5割の減額がなされた保険金が支払われます。
(5)
なお、被害者に100%の過失がある場合に、自賠責保険金の支払を受けられないことは言うまでもありません。
(ハ)

幼児の飛び出しと過失相殺

Q:
自動車を運転中、幼児に怪我を負わせてしまいましたが、幼児が突然飛び出してきた場合でも、運転者は被害者に生じた損害の全部を賠償しなければならないのでしょうか?
A:
1.
過失相殺と事理弁識能力
被害者自身に何らかの過失(落ち度・不注意)がある場合には、過失相殺によって、加害者の賠償すべき損害額が減額されることがあります。ただし、過失相殺が認められるためには、被害者に事理を弁識することのできる知能(事理弁識能力)が必要とされています。そして、この事理弁識能力があるかどうかの判断は、被害者ごとに異なるものですので、年齢だけで判断されるものではありませんが、5歳3か月、5歳9か月の小児に事理弁識能力を認めた裁判例があります。しかし、2、3歳の幼児が被害者である場合には、事理弁識能力がないものとして、その幼児自身の過失については、過失相殺が認められないことになるでしょう。
2.
被害者側の過失
被害者にも何らかの過失がある場合に、その被害者が2、3歳の幼児であるからといって、損害賠償額が減額される可能性が一切ないわけではありません。
判例は、
(1)
民法722条2項の「被害者の過失」とは、単に被害者本人の過失のみでなく、広く被害者側の過失をも含み、
(2)
被害者本人が幼児である場合の被害者側の過失とは、父母ないしは父母の被用者である家事使用人などのように被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうとしています。
したがって、ご質問のようなケースでも、自動車事故につき、被害者である幼児の父母や家事使用人などに過失があった場合には、過失相殺が認められ、加害者の損害賠償額が減額される可能性があります。

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