消極損害の範囲1

交通事故損害賠償請求ガイド

交通事故が発生したときの措置、損害賠償責任、損害賠償の範囲、遅延損害金と時効、自動車保険、紛争の解決方法、刑事責任という7つの主題について、交通事故損害賠償請求のQ&Aをご紹介します。

3

損害賠償の範囲のQ&A

(3)

消極損害

(イ)

逸失利益とは

Q:
自動車事故により被害者が死亡したり、負傷して後遺症が残ったときに、加害者が賠償すべき損害の1項目である逸失利益とは何ですか?
A:
1.
逸失利益とは
自動車事故で被害者が死亡した場合、被害者が生きていれば将来得られたであろう利益を逸失利益といい、消極的損害の1項目です。被害者が負傷して後遺症が残った場合も、後遺症がなく、労働能力が喪失したり低下していなければ将来得られたであろうときにも、逸失利益は生じることになります。
2.
逸失利益の算定方法
(1)
基礎収入
逸失利益の算定にあたっては、原則として、被害者が事故前に現実に得ていた労働の対価としての収入額を基礎とします。ただし、被害者が幼児、学生、専業主婦の場合は、全年齢平均賃金または学歴別平均賃金を基礎とします。
(2)
就労可能年数
次に、逸失利益の算定にあたって、被害者が働くことができたであろう期間(就労可能年数)を求めます。実務上、67歳までが就労可能な年齢の上限とされていますから、67歳から事故時の年齢を差し引いた年数が就労可能年数になります。なお、現実にはまだ就労しているものの67歳を超えていたり、67歳に近い年齢の場合、平均余命から事故時の年齢を差し引いた年数の2分の1程度が就労可能年数とされているようです。
(3)
生活費の控除
被害者が自動車事故により死亡した場合の逸失利益の算定に際しては、被害者が生きていれば通常必要となる生活費を、賠償すべき損害額から、次のような割合で控除しています。イ被害者が一家の支柱であった場合のうち、被扶養者が(イ)1人の場合は40%、(ロ)2人以上の場合は30%、ロ被害者が女性の場合、30%ハ被害者が男性の場合、50%
(4)
中間利息の控除
判決によって逸失利益の損害賠償請求が認められる場合、原則として、加害者は全額を一括で(一時金として)支払わなければなりません。したがって、事故時の年齢から67歳までの中間利息が、賠償すべき損害額から控除されます。具体的には、特段の事情がない限り、年5%の割合によるライプニッツ方式によることとなります。
(5)
計算式
以上により得られた数字に基づいて、逸失利益の計算式は次のようになります。
基礎年収×生活費控除割合×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
(ロ)

後遺症に関する損害賠償額の算定

Q:
自動車事故により後遺症が残った場合、損害賠償額の算定はどのようになりますか?
A:
1.
後遺症等級
(1)
治療を継続しても症状の改善を望めない状態(症状固定)になった場合、自動車損害賠償保障法により、損害保険料率算出機構またはその下部組織の調査事務所が、「後遺症別等級表」(同法施行令2条)に照らして等級認定を行います。
(2)
逸失利益の算定式は、原則として、次のようになります。
基礎年収×認定された等級に対応する労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
(3)
例えば、年収400万円の30歳の男性が後遺症4級の場合、逸失利益の計算は次のようになります。
400万円×92%×16.711=6149万6400円
2.
慰謝料
後遺症が残ったことについての慰謝料の額は、裁判実務上、自動車損害賠償責任保険の後遺症保険金額の80〜90%とされています。
(ハ)

後遺症による逸失利益と事故後の死亡

Q:
自動車事故により被害者に後遺症が残り、その後、加害者に賠償請求しない間に、被害者がその事故とは別の原因により死亡した場合、被害者の遺族は加害者に対して、被害者の死亡時までの逸失利益しか賠償を請求できないのでしょうか?
A:
1.
自動車事故により被害者に後遺症が残り、その後、加害者に賠償請求しない間に、被害者がその事故とは別の原因により死亡した場合、被害者の遺族が加害者に賠償を請求できる逸失利益の額の算定に際しては、最初の事故の時点で、死亡の具体的な原因が存在し、近い将来に死亡することが客観的に予測されていた等の特段の事情がない限り、死亡の事実を考慮せず、生存している場合と同様に算定することとされています。
2.
なお、被害者が死亡した場合でも、逸失利益の算定にあたって、死亡後の生活費が控除されることはありません。
3.
他方、後遺症のために介護を受けていた被害者が死亡した場合、死亡後の介護費用を請求することはできません。

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