不服申し立て、政府保障事業

交通事故損害賠償請求ガイド

第2

自動車保険

1

自賠責保険

(8)

保険金支給額または不支給決定に対して不服を申し立てる方法

(イ)
損害の調査
自賠責保険の請求がなされると、自賠責保険会社から損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所に関係書類が送付されます。高度の専門的知識が要求され判断が困難な事案や異議の申立があった事案は「特定事案」として、医師、弁護士、学識経験者等の専門家から構成される自賠責保険審査会で審査されます。
これらの調査または審査の結果は損害保険料率算出機構から自賠責保険会社に報告がなされ、自賠責保険会社はこれに基づいて支払額を決定します。
(ロ)
異議申立
自賠責損害調査事務所や自賠責保険審査会における調査や審査の結果、加害者に責任がないと判断されたときには支払いはなされず、また、被害者に重過失があると判断された等の場合には、支払額が減額されることがあります。後遺症の等級認定が不該当とされたり、予想よりも低い等級が認定されることもあります。
このような認定に不服がある場合には、被保険者または被害者が保険金または損害賠償額を請求している(支払に関する判断を行った)自賠責保険会社に対して、その判断に不服である理由を記載した異議申立書に、その理由を裏付ける資料を添付して提出することにより、異議申立をすることができます。
異議申立書には特に書式があるわけではありませんが、自賠責保険会社の窓口に用紙が用意されていますので、これを利用するのもよいでしょう。
異議に対する判断は、既に提出されている書類および異議申立に際して提出された書類の審査を基本とし、場合によっては追加の調査を行います。したがって、既に提出している書類(診断書や事故状況報告書等)に基づく主張については、どの資料のどこを根拠にしているのかを具体的に指摘し、主張を裏付ける新たな資料(診断書、意見書、画像資料等)があれば、これを添付するようにすべきです。
自賠責保険会社は、保険金等の請求があったときは、遅滞なく、支払った保険金等の金額、後遺症の該当する等級、その等級に該当すると判断した理由、その他の支払に関する重要な事項を記載した書面、または、保険金等の支払をしない場合には、その理由を記載した書面を請求者に対して交付しなければならないとされています(自動車損害賠償補償法16条の4)。また、請求者は自賠責保険会社にこれらの書面について不明な点等があるときは、書面で回答するよう説明を求めることができます(自動車損害賠償補償法16条の5)。異議申立に際しては、これらの書面に記載された内容を十分に検討し、その判断の誤りを具体的に指摘することが必要です。
(ハ)
紛争処理機構に対する紛争処理申請
財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構は、自賠責保険金等の支払に関する紛争を中立・公正な判断で解決することを目的とした民間による裁判外紛争処理機関です。
自賠責保険会社に対する異議申立は損害調査のやり直しを求めるものであり、紛争処理機構に対する紛争処理申請は第三者機関に新たに損害調査を求めるものであり、両者は別個独立の不服申立制度です。したがって、いつでもいずれに対しても不服申立をすることはできますが、資料不足が明らかな事案では追加の資料を提出しさえすれば自賠責保険会社の判断が変更され、直ちに不服が解消される可能性があることや、紛争処理機構による紛争処理の結果は、自賠責保険制度における最終判断とされていることから、紛争処理機構の紛争処理申請の受付時に、自賠責保険会社に対する異議申立を最低一度は経るようにアドバイスがなされているようです。
(ニ)
訴訟の提起
自賠責保険会社に対する保険金等の請求訴訟を提起し、その中で自賠責保険会社の判断を争点とする方法もあります。
ただ、この方法によると、実務上、原則として後遺症等級認定等を留保する運用がなされており、また、紛争処理機構は紛争処理を行いません。
(9)

政府保障事業とは

(イ)
政府の保障事業
ひき逃げ事故で加害者がわからない場合や、加害車両が自賠責保険に加入していない場合には、被害者は加害者の加入する自賠責保険から損害の填補を受けられません。
このような場合に備えて、自賠責制度を補完し、被害者を救済するために、政府は自動車損害賠償保障事業を行っています(自動車損害賠償補償法71条以下)。
(ロ)
保障を受けられる場合
政府から保障を受けられるのは次の場合です。
(a)
加害車両の保有者が不明の場合(具体的には、ひき逃げ事故の場合が多いでしょう)
(b)
加害者が自賠責保険に加入していなかった場合
(ハ)
保障の内容
(a)
政府から保障を受けられる自動車事故の種類および保障限度額は自賠責保険の場合と同じです。すなわち、自動車事故の種類としては、人身事故のみで、物損事故は補償の対象になりません。保障限度額は、傷害の場合で120万円、後遺症の場際で等級に応じて75万円から4000万円、死亡の場合で3000万円です。
(b)
被害者が、健康保険給付、労災保険給付、介護保険給付など他の法令により損害を填補する給付を受けることができる場合には、その限度で、政府から保障を受けることはできません(自動車損害賠償補償法73条1項)。
(c)
加害者が自賠責保険に加入していなかった場合に、加害者や加害者と連帯して損害賠償義務を負う者(例えば加害者の使用者など)が被害者に損害賠償金を支払ったときは、被害者はその限度で政府から保障を受けることはできません(自動車損害賠償補償法73条2項)。物損についての損害賠償である場合は、政府からの保障が減額になることはありませんので、被害者が損害賠償を受ける場合には、加害者等との間で、その趣旨を明確にした書面を作成しておくべきです。
(d)
政府に対する保障金請求権は、被害者の加害者に対する損害賠償請求権とは別個の権利ではありますが、損害賠償請求権の存在を前提としています。したがって、そもそも加害者に損害賠償責任が発生しない場合には、政府に対する保障金請求権も発生しませんし、被害者に過失があれば、通常どおり過失相殺を行って保障金の額を算出します。
(e)
親族間で加害者、被害者となる事故については、原則として、保障の対象とされていません。
(f)
複数の加害車両からなる事故の場合で、加害車両のうち1台でも自賠責保険に加入していれば、保障の対象にはなりません。
(10)

政府保障金の請求手続

(イ)
請求手続
政府保障事業に対する保障金の請求は、被害者が、保障事業を委託されている損害保険会社または責任共済組合の窓口に備え付けられている「自動車損害賠償保障事業への損害てん補請求書」に必要事項を記載し、必要書類を添付して行います。
また、必要書類は、自賠責保険に損害賠償額を請求する場合と同じです(交通事故証明、診断書、休業損害証明書、後遺症診断書など)。
保障金の支払には相当長期間を要しているのが実情です。加害車両の保有者が不明の場合で9~10か月、無保険車事故の場合で1年2~3か月くらいかかるようです。
(ロ)
保障金請求権の時効
被害者の政府保障事業に対する保障金請求権は、
(a)
傷害事故の場合は事故日から
(b)
後遺症が残った場合は症状固定日から
(c)
死亡事故の場合は死亡時から
それぞれ2年の消滅時効にかかります(自動車損害賠償補償法75条)。
なお、加害車両の保有者が不明な場合で、保有者と思われる者に対して損害賠償請求訴訟を提起したところ、保有者でないとして請求棄却となった事案について、訴訟提起時に消滅時効がいったん中断し、請求棄却判決が確定した日の翌日から時効が再度進行するとした判例があります。

目次