消極損害の範囲4

交通事故損害賠償請求ガイド

交通事故が発生したときの措置、損害賠償責任、損害賠償の範囲、遅延損害金と時効、自動車保険、紛争の解決方法、刑事責任という7つの主題について、交通事故損害賠償請求のQ&Aをご紹介します。

3

損害賠償の範囲のQ&A

(2)

消極損害

(ヌ)

専業主婦の逸失利益

Q:
自動車事故により専業主婦が死亡した場合や、入院して家事ができなかった場合、さらに、後遺症が残った場合、専業主婦にも逸失利益は認められるのでしょうか?
A:
1.
専業主婦の逸失利益
専業主婦は家庭外から収入を得るものではありませんが、家事自体に財産的利益が認められるので、賃金センサスにおける女子労働者の平均賃金に相当する収入を得ているものと推定して、専業主婦にも逸失利益が認められています。
2.
死亡による逸失利益
(1)
ア.
逸失利益算定の基礎となる収入額については、上述のように、賃金センサスにおける女子労働者の全年齢平均賃金額または被害者の年齢に対応する年齢別平均賃金とされています。
イ.
パート等で家庭外から収入を得ている主婦の場合、専業主婦とはいえませんが、その収入額の方が女子労働者の平均賃金額より高い場合は、その収入額を基礎とし、その逆の場合には、女子労働者の平均賃金額を基礎とするのが実務の傾向です。
(2)
生活費控除の割合は、30%〜40%とされているようです。
後遺症による逸失利益の算定方法については、Q 自動車事故により後遺症が残った場合、損害賠償額の算定はどのようになりますか を参照してください。
基礎となる収入額は賃金センサスの女子労働者の平均賃金によります。
(ル)

無職者の逸失利益

Q:
自動車事故により被害者が死亡または後遺症が残った場合、その被害者が失業中または無職であれば、逸失利益の賠償は一切認められないのですか?
A:
1.
失業中または無職であっても、労働能力と労働意欲がある場合には、死亡または後遺症による逸失利益の賠償が認められています。
2.
したがって、心身障害や高齢のために労働能力が全くない場合には、逸失利益は認められません。労働能力が全くないとはいえない場合には、その程度に応じた逸失利益が認められることになります。
3.
労働意欲がない場合についても考え方は同じですが、事故当時、労働意欲が全くないといえる場合であっても、将来にわたって全く労働意欲がないと断定することはできないので、原則として、逸失利益を認めた上で、ある程度減額することになるでしょう。この点につき、子どもを養育施設に預けたまま全く音信不通で、定職すらも不明であった33歳の男性被害者が死亡した場合につき、逸失利益の賠償を認めた裁判例があります。他方、病弱で労働意欲に乏しく、昼間から飲酒することもあった48歳の男性の被害者が死亡したケースで、事故当時の収入が生活費にも満たなかったとして、逸失利益が否定された判例があります。
4.
逸失利益の算定については、(イ)を参照してください。
基本的に賃金センサスの平均賃金を基礎収入として逸失利益を算定しますが、就職が内定している場合の入社後の収入や失業前の収入を基礎として算定される場合もあります。
(ヲ)

年金ないし恩給生活者の逸失利益

Q:
年金や恩給に頼って生活していた自動車事故の被害者が、死亡または後遺症が残った場合、逸失利益の賠償は認められますか?
A:
1.
問題の所在
年金は、その受給権者だけが受給できるものであって、相続の対象にもならないとされているため、特に被害者が死亡した場合に、逸失利益としての賠償は認められないという考え方があります。また、逸失利益とは、労働の対価としての収入を得られなくなったことによる損害であるところ、年金は労働の対価として受給するものではないため、逸失利益としての賠償は認められないという考え方があります。
2.
実務の立場
(1)
判例は、ア国民年金、イ障害基礎年金・障害厚生年金、ウ地方公務員の退職年金、エ普通恩給につき、逸失利益を認めています。
(2)
他方、ア障害年金のうち、受給者に子と配偶者があることに基づき加給されていた分、イ遺族年金については、判例は逸失利益を否定しています。
3.
生活費控除
逸失利益の算定における生活費の控除については、年金は生活費に費消される可能性が高いとの理由で、一般の場合よりも高い割合で生活費控除がなされる場合が多いようです。また、年金の他に不動産の賃料収入等の収入がある場合や、年金額が高額の場合よりも、年金額が少額で年金の他に収入がない場合の方が、高い割合で生活費控除がなされることが多いようです。
4.
受給資格と逸失利益
年金保険料を一定期間納めることにより受給資格を有している場合は、逸失利益の賠償が認められますが、若年者であって保険料納付の期間が短く、まだ受給資格を取得していない場合には、将来年金を受給できるかどうかが未確定であることから、逸失利益の賠償は否定されます。

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