様々な関係者の責任4

交通事故損害賠償請求ガイド

交通事故が発生したときの措置、損害賠償責任、損害賠償の範囲、遅延損害金と時効、自動車保険、紛争の解決方法、刑事責任という7つの主題について、交通事故損害賠償請求のQ&Aをご紹介します。

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損害賠償責任のQ&A

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様々な関係者の責任4

(ヌ)

緊急自動車による交通事故

Q:
パトカーや消防車等の緊急自動車に追突された場合や、パトカーに追跡されている自動車が事故を起こした場合に、緊急自動車の管理者である国や地方自治体等に損害賠償を請求することはできますか?
A:
1.
緊急自動車とは
(1)
緊急自動車とは、消防車、救急車その他政令で定める自動車で、緊急用務のため、サイレンを鳴らして、赤色の警光灯をつけているものをいいます(道路交通法39条1項、同法施行令13条)。ただし、パトカーが速度違反車両の取締りをする場合で特に必要がある場合には、サイレンを鳴らさなくてもよいとされています(同法施行令14条)。
(2)
緊急自動車は、消防署、警察署、自衛隊、検察庁、刑務所等の公務所の用務に使用される自動車に限られず、民間の病院、電気事業、ガス事業、輸血用血液業者、道路管理会社等の公益目的で緊急性の高い業務に使用される自動車も含まれます。
(3)
そして、緊急自動車は、通行区分や、右左折・転回禁止、一時停止等の交通規制に従わなくてもよいものとされています(同法39条~41条の2)。
2.
緊急自動車の管理者の責任
(1)
緊急自動車は、上述のように、交通規制に従わなくてもよいとされていますが、だからといって、交通規制を守って走行している一般車両に追突等して損害を与えたときに、一切損害賠償責任を負わないということにはなりません。
(2)
左右の安全確認をせずに、赤信号の交差点に進入して、一般車両に衝突した緊急自動車の責任を認めたケース、
(3)
速度違反車両を追尾中に、交差点を右折するために停車している一般車両を認めたにもかかわらず、右折車に注意せず、直進して右折車と衝突した覆面パトカーの責任を認めたケースがあります。
(4)
また、緊急自動車自身が被害者に追突した場合とは異なり、パトカーが交通違反車両等を追跡中に、その違反車両等が事故を起こして第三者を負傷させた場合について、違反車両が幅員5.5ないし8.5メートルの一方通行の道路を逃走し、それをパトカーが時速50ないし60キロメートルで追跡していたケースで、「他に手段方法がなく、第三者に損害を与えることが避けられない場合であって、かつ、その追跡によって得られる社会的利益が第三者の損害を凌駕する場合にのみ、パトカーは責任を負わない」とした上で、このような追跡は第三者の生命身体に危害を与える可能性が極めて高いこと等から、パトカーの責任を認めた裁判例があります。
(5)
バイクで暴走行為をしていた高校生に対し、追跡していたパトカーが時速80ないし90キロメートルで並走しながら、3度にわたり幅寄せをしたため、バイクが道路標識に激突し、高校生が死亡したケースで、パトカーの責任を認めた裁判例もあります。
(6)
なお、緊急自動車の管理者に対する損害賠償請求の法律上の根拠は、パトカー、消防車等の公用車の場合は国家賠償法1条1項、民間の自動車の場合は民法709条になります。
(ル)

公の営造物の設置・管理の瑕疵による交通事故

Q:
夜間、自動車で国道を走行中、道路の穴ぼこにタイヤをとられて事故を起こした場合、国に対して損害賠償を請求することはできますか?
A:
1.
営造物責任
道路、河川その他の公の営造物の設置または管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国または公共団体は、これを賠償しなければならないとされています(営造物責任。国家賠償法2条1項)。
2.
「設置または管理の瑕疵」とは
(1)
「設置または管理の瑕疵」とは、道路の設置または管理が不十分であるために、道路が通常有していなければならない安全性を欠いていることをいいます。
(2)
そして、「瑕疵」があったといえるかどうかは、道路の構造、用法、場所的環境および利用状況等のさまざまな事情を総合的に考慮して、ケースバイケースで判断されます。
(3)
したがって、国や公共団体が法令や内規に従って設置および管理していたとしても、個別具体的な事情によっては、「瑕疵」があったと認められる場合があります。
(4)
また、国や公共団体の予算上の制約があることは、通常、「瑕疵」を否定する理由にはならないとされています。
(5)
道路の「瑕疵」が不可抗力の災害によって生じたとしても、災害の発生が事前に予測可能であり、道路管理者として危害の波及を防止するに必要な措置を講じることができたにもかかわらず、これを怠ったとすれば、道路管理上の「瑕疵」があるとする裁判例があります。
(6)
裁判例上、「瑕疵」には、穴ぼこ、段差、路上障害物の放置、落石、地滑り、雪崩、排水設備の不備、側溝・マンホールの蓋の不具合、ガードレールの不備、照明設備の不備等があります。ただ、上述のように、「瑕疵」といえるかどうかは、あくまでもケースバイケースで判断されるので、都市部の国道や高速道路では「瑕疵」とされる穴ぼこでも、山間部の道路では多少の穴ぼこは「瑕疵」にあたらない場合もあります。
(7)
なお、道路の設置または管理に瑕疵があったことにつき、国または公共団体に不注意があったかどうかは問われません(いわゆる無過失責任)。
3.
賠償責任者
国または公共団体に営造物責任が認められる場合に、道路等の営造物の設置または管理にあたる者と、営造物の設置または管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者も、損害賠償責任を負うとされています(国家賠償法3条1項)。
したがって、管理者は国土交通大臣であるものの、その費用は国と都道府県が負担している一般国道については、国のほかに都道府県に対しても損害賠償請求をすることができます。

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