自賠責保険とは、保険金支給の要件

交通事故損害賠償請求ガイド

第2

自動車保険

1

自賠責保険

(1)

自賠責保険とは

(イ)
自賠責保険の目的
自動車損害賠償補償法は、自動車の運行によって人の生命または身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的としています(自動車損害賠償補償法1条)。このような目的から、自賠法は、被害者の損害を賠償する仕組みとして保険制度を採用したのです。
(ロ)
自賠責保険の特色
自賠責保険は、任意保険に比べて、免責事由や過失相殺等において保険金の支払条件が緩和されており、また、被害者が加害者の加入する自賠責保険会社に直接損害賠償額の支払を請求することができます。
(ハ)
自賠責保険の被保険者
自動車の保有者の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害および運転者も被害者に対して損害賠償責任を負うときのこれによる運転者の損害を填補するため、保険会社は保険金を支払います(自動車損害賠償補償法11条1項)。したがって、自動車の保有者と運転者が自賠責保険の被保険者ということになります。
「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供する者をいいます(自動車損害賠償補償法2条3項)。したがって、自動車を使用する権利を有しない泥棒は被保険者にはなりません。
「運転者」とは、他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者をいいます(自動車損害賠償補償法2条3項)。
(ニ)
自賠責保険(共済)契約締結義務
自動車は、自賠責保険または自賠責共済の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならないとされています(自動車損害賠償補償法5条)。
この義務に違反した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(自動車損害賠償補償法86条の3第1項)。
また、自動車は、自賠責保険証明書を備え付けなければ、運行の用に供してはならないとされています(自動車損害賠償補償法8条)。
この義務に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられます(自動車損害賠償補償法88条1号)。
(2)

自賠責保険と任意保険の関係

(イ)
自賠責保険と任意保険の関係
自賠責保険は自動車損害賠償保障法によって加入が義務づけられている(自動車損害賠償補償法5条)のに対し、任意保険は文字どおり加入は任意とされています。
自賠責保険は人身損害の填補を目的としますが(自動車損害賠償補償法11条1項、3条)、任意保険は人身損害のみでなく、物的損害の填補をも目的とします。
人身損害については、自賠責保険と任意保険が併存することになりますが、自賠責保険が第1次的に適用され、任意保険は自賠責保険の上乗せとして第2次的に適用されます。すなわち、自賠責保険だけでは損害の全額を填補するに足りない場合に、任意保険がその不足額を填補する役割を果たします。
(ロ)
保険金が支払われる場合
自賠責保険金が支払われるのは、自動車の運行によって人身事故が生じ被保険者が損害賠償責任を負う場合に限られますが(自動車損害賠償補償法11条、3条)、一方、任意保険金は、自動車の運行より広く「所有、使用または管理」に起因する対人事故により被保険者が損害賠償責任を負担する場合に支払われます。
任意保険の場合、被害者が記名被保険者、事故車両の運転者やそれらの父母・配偶者または子である場合には、保険金が支払われませんが、自賠責保険の場合には必ずしもこのような制限があるわけではありません。
(ハ)
被害者の直接請求
自賠責保険の場合、被害者は自賠責保険会社に対し、保険金額の限度で損害賠償額の支払いを請求することができます(自動車損害賠償補償法16条1項)。
任意保険の場合、被害者は、被保険者の損害賠償責任の確定(判決の確定、裁判上の和解、調停の成立等)等一定の要件の下で、保険会社が被保険者に対して填補責任を負う限度において、直接に損害賠償額の支払いを請求することができるに過ぎません。
(ニ)
仮渡金・内払金
自賠責保険の場合、被害者は自賠責保険会社に対し、治療費等当面の支出に充てるため、仮渡金の支払を請求することができます(自動車損害賠償補償法17条)。また、被保険者と被害者は、自賠責保険会社に対して、内払金の支払を請求することもできます。
任意保険の場合、損害賠償責任が確定していなくても、予想される損害賠償額の範囲内で、治療費等当面の費用の内払がなされることがあります。
(ホ)
自損事故
例えば、運転を誤ってガードレールに激突して運転者自身が怪我をした場合など、加害者のいない自動車事故を自損事故といいます。
自賠責保険は、他人の人身事故による損害を填補するためのものですから、自損事故については保険金は支払われません。
他方、任意保険の場合、全ての用途・車種の対人賠償保険契約に自損事故条項を付けるか、あるいは、人身傷害補償保険によって、自損事故についても保険金が支払われることになります。
(へ)
その他
自賠責保険の場合、民法の原則どおり過失相殺が適用される任意保険の場合と異なり、被害者救済の見地から、過失相殺の適用が制限されています。
その他にも、自賠責保険と任意保険には様々な違いがありますが、このような相違は、任意保険が自賠責保険を補完し上乗せする役割を果たすものであることによります。
(3)

保険金が支給されるための要件

(イ)
自賠責保険金が支払われるための要件
自賠責保険金は、(a)自動車の保有者と運転者(被保険者)が、(b)自動車の運行により、(c)他人を死傷させたときに、(d)被保険者の損害賠償責任が確定することにより生じる損害を填補するために、支払われます。
(ロ)
免責事由
自賠責保険会社は、保険契約者または被保険者の悪意によって生じた損害については、被保険者に対する保険金の支払を免れるとされています(自動車損害賠償補償法14条)。
ただし、この場合であっても、被害者は、直接自賠責保険会社に対し、保険金額の限度で損害賠償額の支払を請求することができます(自動車損害賠償補償法16条1項、4項)。
また、1台の自動車について2つ以上の自賠責保険または自賠責共済の契約が締結されている場合には、自賠責保険会社または自賠責共済組合は、これらの契約のうち締結した時期が最も早い契約以外の契約について支払いを免れるとされています(自動車損害賠償補償法82条の3)。

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