株式購入に対する規制

企業買収と企業防衛マニュアル

第2章

敵対的買収

集合写真
第1

企業買収

株式購入に対する規制

(1)
総論
目下のところ、会社法や金融商品取引法は、株式譲渡自由の原則をとった上で、株式取得の過程を規制しています。すなわち、株式を買い集める行為そのものは自由とし、特定の場合に株式を買い集める方法を規制し、かつ、大量に株式を取得した者にはそのことを開示するように要求しています。
そして、買収の対象とされた会社の側で何らかの防衛手段を講ずることを認めないわけではありませんが、その手段の妥当性は厳密に吟味されます。経営者の保身ではないのか、企業価値を高めることができるのか、株主の立場や市場への影響はどうか、というような観点からその当否が検討されるという状況にあります。
(2)
規制の態様
法律は、株式を買い集めることを禁止していませんが、コソコソせず堂々とやることを義務づけています。株式の買占めに対する規制は、
株式の取得過程に関する規制
株式の保有状態に対する規制
に分かれます。
①は、他社の株を買うからにはコソコソせず堂々と買い付けなさいという趣旨の規定で、公開買付けの義務化がこれに該当します。そこには株式を売る立場に立つ多くの株主の保護策も盛り込まれています。
②は、大量の株式を保有する者はそのことを堂々と開示せよという趣旨の規定で、大量保有報告書の提出義務がこれに該当します。
これらは金融商品取引法に定められており、ある会社の株式をこっそり買い集めていって、ある日突然50%の株式を買い占めたぞと躍り出るような行為を法は認めていないのです。以下、これらの規制を細目的に見てゆきましょう。
(3)
大量保有報告書
株券等を上場している株式会社について、全体の5%を超える株式を保有することになる者(大量保有者)は、その日から5日以内に大量保有報告書を総理大臣に提出して、保有割合、取得資金、保有目的など自己が多数の株式を有するに至った事実を開示しなければなりません。
これによって、買収の対象にされた会社の取締役も自社の株式を買い占めているライバルがいるということを知ることができます。ある日突然、過半数の株式を取得したという大株主が登場して、「自分はアンタの会社を乗っ取ったから今までの取締役は出てゆけ」というような「不意打ち」の心配はなくなります。
ただし、この5日間のうちに多数の株式を買い集めることが禁止されているわけではありませんから、公表されたときには買い占めた株式総数が5%をはるかに超えているという事態がないわけではありません。
開示すべき事項の中では、買収者が使う資金の出所が重要です。自己資金で買い占めるのであれば買収者の財産状態を隠せなくなりますし、銀行から借り入れた資金を乗っ取りに使うということであれば、そのことを開示しなければなりません。これは、特に会社と無関係の者が勝手に会社を乗っ取るという行為に対してアレルギーがある時代には、買収資金を貸し付ける銀行側にも事実上の制約要因として働きます。銀行はドロボー猫のような乗っ取り家に資金を貸しているのか、という世論を意識せざるをえないこともあるのです。
買収者は、対象会社の株式を5%取得した後も、保有割合が1%以上変化した場合、変更報告書を提出しなければなりません。したがって、その後ジワジワと買占めが続けば、そのことが公に知らされるわけです。
総じて開示は、買収側にとっては厳しい要件となりますが、それでも他社の株を買ってはいけないという制約はありません。
(4)
株式公開買付け
株式を買い集めたい人は、対象会社の株式が上場されている限り、証券市場でその株式を買うことができます。最近はインターネットを通じて株式の取引をする投資家も増えています。のみならず、上場株式であっても、市場の外で直接売りたいという株主が見つかれば、その者から株式を購入することが許されるのです。
しかし、市場外の株式売買を自由にしておきますと、買主は特定の者の株式だけを高値で買ったり、株式を売りたい株主に対してそのチャンスがあることが知らされなかったり、とかく株主の間で不公平、不愉快な差が出てきます。また、市場外で取引があるのに、それが市場の取引に反映しなくなります。
そこで、金融商品取引法は、株式を買い集める行為を一定のルールに従って行うように定めました。これが公開買付けという方法です。
(イ)
公開買付けの義務
公開買付けとは、不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の申込み又は売り付け等の申込の勧誘を行ない、取引所金融商品市場外で株券等の買付け等を行なうことをいいます。一定の要件に該当すると、公開買付けを行なうことが義務付けられます(以下「強制公開買付け」といいます)。アメリカでは、これをTender offerと呼びますが、イギリスではTake over bidと呼ぶため、これを略したTOBが通称となっています。要するにTOBは、ルールに従った株式のまとめ買いのことです。
公開買付けの方法によれば株主間の公平もはかられます。義務づけられるのは開示のみであり、基本的には、多額の出資をした者が会社を支配して経営をしてもよいという制度は維持されています。
強制公開買付けの規制については、非常に複雑ですが、以下のようにまとめることができます。
取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(後記②の「著しく少数の者」からの買付け等を除く。)の後における株券等所有割合が5%を超える場合は、公開買付けが必要(金融商品取引法(以下「金商法」)27条の2第1項第1号) ①が公開買付けによらなければならないのは、株券等所有割合が5%を超える株主は会社の経営や株価の形成等に影響を及ぼしうると考えられるからです。
「著しく少数の者」からの株券等の買付け等(当該買付け等を行う相手方の人数と、当該買付け等を行う日の前60日間に取引市場外で行った買付け等の相手方の人数との合計が10名以下のもの(「特定買付け等」))であっても、当該買付け等の後における株券等所有割合が3分の1を超える場合は、公開買付けが必要(金商法27条の2第1項第2号)
②が公開買付けによらなければならないのは、株券等所有割合が3分の1を超える株主は会社の特別決議を否決できる(拒否権を行使できる)ようになり会社の経営に強い影響を及ぼしうるようになるからです(3分の1超基準)。
取引所金融商品市場内における株券等の買付け等であっても、「特定売買等」に該当する場合(東京証券取引所の立会外取引(ToSTNeT取引)等)で、当該買付け等の後における株券等所有割合が3分の1を超えるときは、公開買付けが必要(金商法27条の2第1項第3号)
③が公開買付けによらなければならないのは、取引市場内の取引であっても、実質的に市場を介さない売買に近い取引についてはこれを規制しなければ強制公開買付け規制の潜脱となりかねないからです(ライブドア対ニッポン放送事件を契機として定められた規制です)。
また、上記①乃至③に加えて、いわゆる急速な買付け及び他者の公開買付け期間中の強制公開買付け等がありますが、割愛いたします。
(ロ)
公開買付けによる必要のない場合
以上に対し、公開買付義務の適用対象となる株券等の買付け等であっても、公開買付けによる必要性の低いものなどについては、以下のとおり適用除外とされています。
権利行使による買付け等の場合
新株予約権を有する者や株式割当てを受ける権利を有する者の権利行使などの場合は、当該権利の取得の時点で、潜在的な議決権として株券等所有割合の算定上既に考慮がされているため、適用除外とされています。
関係者からの買付け等の場合
1年間以上継続して形式基準特別関係者(公開買付者が個人である場合の親族や公開買付者が法人である場合の当該法人の役員等)の関係にある者から買付け等を行う場合や、「特定買付け等」において買付者と特別関係者の株券等所有割合の合計が50%超である場合(但し株券等所有割合の合計が3分の2以上となる場合は除外されます)などにおいては、会社支配権の移転は実質的には生じないと考えられるため、適用除外とされています。
25名未満のすべての株主の同意がある場合
株券等の所有者が少数でかつ全員の同意がある場合は、弊害を生じるおそれが低いため、適用除外とされています。
その他の適用除外
その他、事業再編の手続における迅速化・簡素化のための適用除外などが金商法に詳細に定められています。
(ハ)
公開買付けの手続概要
公開買付けをする場合には、買収者は以下のような手続に従わなければなりません。
(a)
公開買付開始公告
公開買付けをする義務のある者は、買付目的、買付価格、買付予定株式数などの買付内容を、電子公告または日刊新聞紙で公告しなければなりません。
公告をした者は、公開買付届出書を内閣総理大臣に提出する義務があります。
届出書には、対象会社名、買付目的、買付価格、買付予定株式数、買付期間、買付資金、その他の買付条件などが記載されます。この届出書が、財務局、対象会社、証券取引所、証券業協会に送付され、公にされます。
(b)
公開買付説明書の交付
実際に株式を売ってもよいと考えている株主に対して、買付けの概要を記載した説明書を交付する必要があります。公開買付説明書には、公衆の縦覧に供しないとされている事項を除いて、公開買付届出書の記載事項が記載されます。
これによって、株式を売ろうとしている売主も買付けの状況が分ります。市場売却の場合、売主である株主は、株式を売却する前に購入者が誰であるかを認識することはできませんが、公開買付けの手続に応じて株式を売る場合には、株式を購入しようとしている者が外国資本であるかどうかなど、買主である株主の事情を事前に知ることができます。もちろん、外国資本が国内の会社を手先として使って公開買付けをした場合は、本当の買収者の名前は表面には現れません。
(c)
その他の公開買付手続規制
公開買付けの買付期間は、20日間から60日間に定められています。公開買付者などは、原則として公開買付けの手続によらないで株式を購入してはならないことになります(別途買付の禁止)。
買付価格などの買付条件は均一に定めなければなりませんし、買付価格を下げたり、買付予定株式数を減少したり、買付期間を短縮したりするなど、応募株主に不利になるように買付条件を変更することは禁止されています。買付けに応募した株主には契約解除権が認められますが、公開買付者は原則として買付予定を撤回することができません。
また、対象会社側には、公開買付けに関して意見を公表するための意見表明報告書の手続があります。

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