企業防衛の基本

企業買収と企業防衛マニュアル

第2章

敵対的買収

集合写真
第2

企業防衛

企業防衛の基本

(1)
総論
企業買収に対する完全な防衛策はありません。株式会社の現在の経営体制を崩壊させないで、永遠に継続することを可能にする絶対的な薬はありません。しかし、多大の犠牲を払うことを覚悟するのであれば、それに近いことは可能です。
会社が買収をされないことを第一に考えるのであれば、株式を証券取引所に上場しないという手がありますし、もっと徹底するのであれば、株式に譲渡制限を付ける方法があります。これは、既述のように、「株式を譲渡するときは会社の承認が必要である」と定款に定めておくことによって、株主の株式譲渡の自由を奪ってしまう方法です。
こうすれば買収者は、会社の承諾なしに株主になることができなくなります。しかし同時に、譲渡制限をつけた会社の株式は上場することはできませんし、譲渡制限の設定時に上場会社であれば、そのまま上場を維持することができなくなります。
これらの防衛策は、会社を防衛するメリットよりも大きなデメリットを生じさせてしまうというのが一般的な考え方です。例外として、後述するMBOによる上場廃止があります。
防衛方法として提示されている行為には種々のものがありますし、分類方法も一様ではありません。平時の策もあれば、戦時の策もあります。強力な防衛策もあれば、一応の防衛効果を生ずるだけのものもあります。鉄壁のような防衛策もあれば、漠然と戦いに備えるだけの策もあります。株式に関係するもの、取締役に関係するもの、新株予約権を利用するもの、種類株式を利用するもの、他社の協力を必要とするもの、株主総会の承認を経ておくもの、第三者委員会に判断を仰ぐもの、中には疑問符がつくけれども時間稼ぎとして使われる策もありましょう。
(2)
防衛策への反発
防衛策を講じたことに対する反発も考えられます。特に株主総会で決議して決定する防衛策に関しては、機関投資家(厚生年金基金連合会など)、外国株主(情報分析専門のISSの影響を受けた株主など)、少数派株主などが反対票を投ずることがあります。
現に平成17年の東京エレクトロン、横河電気、ハナックの株主総会において、会社が発行することができる株式数の枠を拡大しようとする定款変更議案が否決されています。
防衛策について株主総会の承認決議を得ておけばかなり安定しますが、実際に株主総会において防衛策の承認を得るためには株主の不安を解消しなければなりません。
株主総会で承認を求めるのであれば、総会決議の成立に神経を使いますが、株主総会の承認決議を経ないで防衛策を実行しますと、株主が反発することがあります。
防衛策が株式の発行、新株予約権の発行などであれば、株主がこれらの発行の差止めを求める仮処分を裁判所に請求する例はいくつもありました。ほかにも、新株発行無効の訴えを提起したり、やり方が適当でないということで、株主が取締役の損害賠償責任を追及するということもあります。こうなりますと、防衛策を実行できるかどうかは裁判所の判断にかかってきます。
(3)
株式の発行、譲渡が主役
言うまでもなく、企業防衛の基本は議決権を有する多数の株主を味方につけることです。力と力の衝突は最終的には株主総会の議決で決定されるからです。その意味では、経営者が株主の変らない支持をとりつける安定株主対策は防衛の基本です。
株主に対する働きかけを超えた、より積極的な防衛策を考えるのであれば、株式の譲渡、取得、株式の発行に注目しなければなりません。もちろん、新株予約権も株式と同様の機能を営みます。
株式の取得や株式の発行に手をつけないで、役員報酬や会社財産の処理を工夫することによって防衛する方法も、企業防衛方法として数えられる場合がありますが、これらは確定的に防衛の効果を生ずるものではありません。城を攻められたときに、真に敵を迎え撃つ手段が本来の防衛なのであって、領主が大金をもって逃げてしまうとか(ゴールデン・パラシュート)、城を焼き払うことで報復する(焦土化作戦)などという作戦は、城(会社)や領民(株主)のことを考えていない行為といわれるおそれがあります。
いずれの策を採るにせよ、ルールを守ることが必要です。アメリカの実務から企業防衛方法を学ぼうというときに気をつけなければならないことです。
なお、諸策を考えるときの参考になるように、間接的に敵を追い払うにすぎない方法についても防衛方法として列挙することにします。

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