株式会社は株式の分割をすることができます(会社法第183条第1項)。株式の分割とは、1株を2株に分割するとか、10株を11株に分割するなど、株式を細分化する行為です。
例えば、市場で取引される株式数を増やして取引単価を下げ、個人株主などが取引しやすいようにするために利用されたりします。
株式を分割しても会社の資本金や会社財産に変動はありませんが、当然のことながら、各株主の持株数は増加します。株式分割後も会社が1株あたりの配当額を維持するならば、株式数の増加は株主にとって増配効果があることになります。しかし、株式を分割しても各株主あたりの会社の純資産額は変りませんし、株主間の相対的な支配割合も基本的には変化しません。株式分割は、各株主の間の相対的地位に影響を与えませんので、取締役会設置会社では、取締役会の決議(その他の会社では株主総会の普通決議)によって行うことができます(会社法第183条第2項)。
買収の対象とされた会社が株式の分割をすると、株式数が増加しますから、買収者が購入を予定していた株式数を取得しただけでは所期の目的を達成できないことになります。そこで、株式分割が企業防衛の効果があるのではないかと考えられるのです。
株式分割によって株式数が増加すれば、それに対応して時価が低下しますから、理論的には、株式分割の前後で時価総額(すなわち株式数と時価の積)に変化はないはずです。
しかし、実際には市場が敏感に反応しないために、少なくとも一時的には、株式分割によって時価総額が上がることがあります。その点も買収側にとっては嫌な点です。
実際に買収、防衛に関係して株式の分割がテーマになりました。
これは、施工図作図や施工管理業務の請負事業などを主たる業務としている夢真グループの純粋持株会社である夢真HD(大阪証券取引所ヘラクレスに上場)が、都市設計を主な業務とする会社である日本技術開発(ジャスダック上場)を買収しようとした事件です。
夢真が日本技術開発の発行済株式総数の5~6パーセントを保有した段階で買収の意向があることを知った日本技開は、「株式を20%以上買い付けた者に対して、十分な情報提供をすること、および、大規模買付けをする前に取締役会による評価期間をおくこと」を求める自社の大規模買付ルールを定め、さらに「大規模買付者(20%保有)により、大規模買付ルールが遵守されなかった場合には、具体的な買付方法の如何にかかわらず、取締役会は、会社および株主全体の利益を守ることを目的として、株式分割、新株予約権の発行等の手段を行使して大規模買付行為に対抗する場合がある。具体的にいかなる手段を講じるかについては、その時点で最も適切と取締役会が判断したものを選択することとする。ただし、取締役会が具体的対抗策として一定の基準日現在の株主に対し株式分割を行うことを選択した場合には、株式分割1回につき株式1株を最大5株に分割する範囲内において分割比率を決定するものとする」ことを明らかにしました。
これは事前警告型防衛策の一種です。
双方が警告を出し合う状態の後、日本技術開発の取締役会は株式分割を決議しました。その後、夢真HDが日本技術開発の株式の公開買付けを開始し、さらに、東京地裁に対して日本技術開発のした株式分割を差止める仮処分を申請しましたが、裁判所は、以下のように述べて、この申立を却下しました。
「①債権者(夢真HD)は、平成17年6月15日から短期間の間に債務者(日本技術開発)株式を多数取得し、発行済株式総数の約6.83パーセントを保有する筆頭株主となったこと、②債務者は、債権者との間で、同年7月7日に債権者が債務者株式を大量に取得した経緯を聴くために会談を行い、債権者が業務提携の協議を申し入れ、協議に応じるか否か同年7月11日までに回答を求めたのに対し、債務者は同月15日まで返答の猶予を求めたこと、③債務者は、翌8日に独自に定めた本件大規模買付ルールを公表し、大量買付けを行おうとする者に、債務者取締役会に対し事前に十分な情報を提供するとともに、債務者取締役会による一定の評価期間が経過した後に大規模買付行為を開始すべきことを求めたこと、④これに対し、債権者取締役会は、同月11日に債務者株式を公開買付けにより取得することを決議したこと、⑤債務者は債権者に対し本件大規模買付ルールに従い、事業計画を提出するとともに、公開買付けを債務者の定時株主総会が開催されるまで実施しないよう求めたけれども、債権者がこれを拒否したこと、⑥そのため、債務者は、同月18日、取締役会において本件株式分割を行う本件取締役会決議を行ったこと、⑦債務者の定時株主総会が同年9月末までに開催されることとなっているところ、本件株式分割の効力は同年10月3日に生ずることの各事実が認められ、こうした経過からすれば、本件株式分割の目的は、債権者が本件公開買付けをする前に本件取締役会決議をすることにより、債務者の定時株主総会が開催されるまで債権者が公開買付けを行うことを阻止することにあるということができる」とし、「本件株式分割を行った本件取締役会決議は、その経緯において批判の余地がないではないものの、取締役会が本件株式分割を決議した意図(取締役会の保身を図るものとは認められず、経営権の帰属に関する株主の適切な判断を可能とするものであること)、既存株主に与える不利益の有無及び程度(株主の権利の実質的変動をもたらすものではないこと)並びに本件公開買付けに対して及ぼす効果(本件株式分割が本件公開買付けの効力の発生を定時株主総会以降まで引き延ばすものにすぎず、その目的の達成を法的に妨げる効果を有するものとは認められないこと)の観点からみて、本件株式分割が、証券取引法(筆者注:現在の金融商品取引法)の趣旨や権限分配の法意に反するものとして、直ちに相当性を欠き、取締役会がその権限を濫用したものとまでいうことはできない。
なお、債権者は、本件株式分割により、事実上本件公開買付けの実施が困難となると指摘するところ、これを認めるに足りる疎明がないことは判示のとおりであるが、仮に、本件株式分割の結果、本件公開買付けに事実上著しい支障を来したと認められる場合には、対抗手段としての相当性を欠くと解する余地もないではない」と結論付けました。