本格的な防衛方法

企業買収と企業防衛マニュアル

第2章

敵対的買収

集合写真
第2

企業防衛

本格的な防衛方法

(1)
第三者割当の募集株式発行
買収の対象とされた会社が、新規に株式を発行して味方の株主を増やせば、買収者の取得した株式が対象会社の株式全体に占めるパーセンテージは低下します。敵を追い落とすのではなく、多数の株式を有する味方を作ってしまおうという防衛作戦です。
この方法は、取締役会の決議だけでできる場合と、株主総会の特別決議が必要な場合があります。特に有利な発行価額で発行するときは株主総会の決議が必要になりますし、不公正な方法による発行は認められません。
企業防衛の場において第三者に対する株式の発行をするためには、株主総会の決議が不要な方法が選択されます。しかし、あからさまな防衛手段としての株式発行は認められなくなっています。
(イ)
東京地裁平成16年6月1日決定(宮入バルブ事件)
新株発行のボーダーラインについて、裁判所は、「商法第280条ノ2第2項にいう「特ニ有利ナル発行価額」とは、公正な発行価額よりも特に低い価額をいうところ、株式会社が普通株式を発行し、当該株式が証券取引所に上場され証券市場において流通している場合において、新株の公正な発行価額は、旧株主の利益を保護する観点から本来は旧株の時価と等しくなければならないが、新株を消化し資本調達の目的を達成する見地からは、原則として発行価額を時価より多少引き下げる必要もある。そこで、この場合における公正な発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである。もっとも、上記の公正な発行価額の趣旨に照らすと、公正な発行価額というには、その価額が、原則として、発行価額決定直前の株価に近接していることが必要であると解すべきである(最高裁判所昭和50年4月8日第三小法廷判決、民集29巻4号350頁参照)。
本件において、公正な発行価額を決定するに当たって、本件新株発行決議の直前日である平成16年5月17日の株価、又は本件新株発行決議以前の相当期間内における株価を排除すべき理由は見出しがたい。
以上によれば、本件発行価額393円は、公正な発行価額より特に低い価額すなわち「特ニ有利ナル発行価額」といわざるを得ず、商法第343条の特別決議を経ないで行われた本件新株発行は、商法第280条の2第2項に違反するというべきである。
そして、本件新株発行が行われた場合、既存株主が株価下落による不利益を被ることは明らかであり、債権者らは、債務者に対して商法第280条ノ10に基づく本件新株発行の差止請求権を有する。」と結論付けました。
会社法の制定により、「特ニ有利ナル発行価額」は会社法第199条3項に、株主の差止請求権は会社法第210条に位置づけられることとなりましたが、裁判所は、この新しい会社法の下でも上記と同様の見解を採用するものと推測されます。
(ロ)
東京地裁平成16年7月30日
ベルシステム24がNPIホールディングに対して行った新株発行について、株主であるCSKが、著しく不公正な方法による新株発行であることを根拠に差止めを求めた事例において、裁判所は、「「著シク不公正ナル方法」による新株発行とは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合をいうと解されるところ、株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合にあたるというべきである」としました。
これは予ねてより「主要目的ルール」と呼ばれてきたものですが、本件では、このルールに沿って、新株発行会社における資金調達の必要性、および、調達した資金の利用計画の合理性をチェックして、本件新株発行は「著シク不公正ナル方法」による新株発行ではないとしました。その後、東京高裁に異議申し立てがなされましたが、東京高裁も上記判断を維持しました。
(2)
新株予約権の利用
(イ)
新株予約権の意義
新株予約権は、権利者(新株予約権者)が、あらかじめ定められた将来の時期に、一定の価格で、所定の数の株式を会社から取得できる権利です。
上場会社の一例として、現在の株価が1株1000円である会社において、1年後から3年後までの間(権利行使期間)に、1株1200円で当社の株式を取得することができる権利を、株主は1株につき1個(1個あたりの株数10株)有する、などと定められます。
新株予約権を取得するためには発行対価を支払う必要がありますが、無償で発行される場合もあります。株主以外の者も取得することができます。取得条項付新株予約権もありますし、譲渡制限付新株予約権もあります。
新株予約権は権利であり、財貨の性質を有しますから、取締役や従業員の報酬の一種として利用されることがあります。これをストック・オプションと呼んでいます。また、社債に新株予約権をつけて新株予約権付社債にすれば、発行会社の借金の金利負担を軽減する効果が出てくるのです。
(ロ)
新株予約権の経済的価値
新株予約権の権利者が株式を取得するために支払う額、つまり株式購入価格が事前に固定されていますから、行使期間になって現在よりも株価が高騰しているならば、権利者は新株予約権を行使して株式を取得するでしょう。なぜならば、定められた安い価額を支払うだけで高価な株式を手に入れることができるからです。
先の事例では、権利行使期間が到来したときに株価が2000円になっている場合、権利者は権利行使によって、1200円を支払うだけで時価2000円相当の株式を取得することができます。それを市場で売却すれば差額(1株につき約800円)を現金化することができます。権利者が発行時に多少の払込額を負担していても、全体としては利益になるのです。
反対に行使期間に株価が下落していた場合には権利を行使しなければよいのです。
もし、権利行使期間に株価が1000円程度に低迷していれば、権利者はメリットがないので予約権を行使しないままでしょう。株式が欲しいのであれば、1200円を支払って株式を取得する(新株予約権を行使する)よりも1000円を支払って株式市場で株式を取得した方が安上がりであるからです。
このように新株予約権の権利者は、権利行使期間内の株価の上昇に大きな利益を有することになります。
(ハ)
新株予約権の発行手続
会社法は、公開会社(株式譲渡制限のない会社)における新株予約権の発行につき、原則的には取締役会(一般には株主総会)の決議限りで発行可能としていますが、無償での有利条件発行、または、有償での有利な払込金額での発行については株主総会の特別決議を要するとしています(会社法第238条第2項、第3項、第240条第1項、第309条第1項第6号)。
(ニ)
既存株主の差止請求権
新株発行の場合と同様に、株主は不利益を受けるおそれのある新株予約権の発行に対して差止請求権を有しています。
すなわち、新株予約権の発行が、①法令または定款に違反する場合、または、②著しく不公正な方法による場合に、これによって株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対して、新株予約権の発行の差止めを請求することができます(会社法第247条)。この場合には、仮処分の申請が伴うのが普通です。
著しく不公正な方法による発行の場合と異なって、発行条件や払込価額が特に有利である発行については、特に条文に明記されていないので、差止要件を満たさないようにも見えます。しかし、新株予約権を無償で発行した場合の発行条件、または、同じく有償で発行した場合の払込価額が特に有利であれば、株主総会の特別決議が必要ですから、特に有利な発行条件、払込価額であるにもかかわらず、株主総会の決議を経ずに第三者に対して新株予約権を発行した場合、法律の定めた要件を欠くという意味での法令違反が成立することになり、①にいう、法令違反による差止めの要件を満たすことになるのです。
②の不公正な方法による発行であるかどうかも争点の一つです。経営陣の保身のための新株予約権の発行は厳しくチェックされます。
(ホ)
新株予約権と企業防衛
新株予約権の発行は、新株発行と並んで、会社が株式という発言権の付着した証券を発行する(または潜在的に発行する)行為であり、したがって将来会社全体の中での株主の発言権を増加する効果を生ずる行為ですから、使い方を工夫すれば、新株予約権を企業防衛の手段に使うことが可能です。株式と同様に、会社に友好的な株主が新株予約権を取得していて、会社にとって好ましい株主が増えて欲しいときに、必要に応じて新株予約権を行使して株主になってくれれば、味方の株式数が増えますから、経営陣にとってはありがたいことになります。
しかし、買収者が他の株主と同等の立場で新株予約権を取得したのでは、株主間の株式保有割合が変わりませんから、意味がありません。問題は、どのようにして買収者以外の株主に新株予約権を付与し、どのようにして味方の株主になってもらうかです。
(ヘ)
株主割当と第三者割当
既存の株主に対して、持株数に比例して新株予約権を割り振る株主割当の方法と、そうでない第三者割当の方法があります(その他に株主無償割当もあります)。
新株予約権の発行は、株式市場に与える影響を少なくしながら、いざという場合にだけ防衛手段を発動することができるという特徴があり、上場会社にも違和感がありません。
不当な企業防衛ないし経営者の保身のための行為ではないかと疑われる新株予約権の発行は、株主総会の決議を経ないで取締役会の決議限りで行われる場合に集中します。会社法(公開会社の場合)は、取締役会の決議限りで新株予約権を発行することができる場合を、①第三者に対して特に有利でない条件(価額)で新株予約権を発行する場合、②既存の株主に対して持株数に比例して新株予約権を発行する場合の二つについて許しています。
以下では、この二つの場合を区別して、企業防衛上の問題を考えます。
(ト)
新株予約権の第三者発行
新株予約権の発行は、会社の株式数の増加をもたらすという点では新株発行と本質的に相違がありませんから、経営陣が自己の味方になってくれる第三者に対して新株予約権を発行し、総会支配を維持できるように画策するおそれがありがちであることは否定できません。とりわけ敵対的買収によって既存の会社支配体制が揺らいできたような場合には切実な問題となります。もちろん経営の状況から判断して第三者に対する新株予約権の発行が正当な行為であることもあります。
企業防衛手段として、株主総会の決議を経ることなく第三者に新株(新株予約権)を発行することの当否については多々議論されてきました。
(a)
実例
最近の実例としては、外部(ライブドア)からの株式買占めに遭遇したニッポン放送が、フジテレビに対し、大量の第三者割当新株予約権を発行して話題となりました。これは上場会社の例であり、経営支配権争いの渦中で新株予約権が発行されたという特色があります。
買収の対象会社となったニッポン放送が、フジテレビに対し、新株予約権を発行しようとしたところ、株主であるライブドアがこの新株予約権の発行を差し止める仮処分申請を行いました。
(b)
東京地裁平成17年3月11日決定
上記仮処分申請事件において、東京地裁は、平成17年3月11日に、「支配権維持が主目的で不公正発行に当たる」として、新株予約権の発行を差し止める決定をしました。
理由の要旨としては、以下の2点があります。
「特ニ有利ナル条件」(商法第280条ノ21第1項)による新株予約権の発行といえるかの点について、新株予約権の有利な条件による発行にあたるかどうかは、オプション評価理論に基づいて算出された新株予約権の発行時点における価額(公正な発行価格)と取締役会において決定された発行価額とを比較して判断することになるけれども、本件発行価額の算出方法について明らかに不合理な点は認められないから、本件新株予約権の発行が「特ニ有利ナル条件」による発行であるとまでいうことはできないとしました。
著シク不公正ナル方法」(商法第280条ノ39第4項、第280条ノ10)による新株予約権の発行といえるかという点については、「「著シク不公正ナル方法」による新株予約権の発行とは、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合をいい、株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株予約権が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株予約権発行が支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情がない限り、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合にあたるというべきである。」とし、債務者(ニッポン放送)による新株予約権の発行は現在の取締役の地位保全を主たる目的とするものということはできないが、「現経営陣と同様にフジサンケイグループに属する経営陣による支配権の維持を目的とするものであり、なお現経営陣の支配権を維持することを主たる目的とするものというべきである」としました。
また、債務者(ニッポン放送)は、本件新株予約権の発行は、債務者の企業価値の毀損を防ぎ、企業価値を維持、向上させ、また放送の公共性を確保するために行ったものであり、本件新株予約権の発行は正当なものであると主張しているけれども、「特定の株主の支配権取得によりかかる利益が毀損される場合には、取締役はこれを防止することを目的としてそのために相当な手段をとることが許される場合があるというべきである。他方、現経営陣の支配権の維持を主たる目的とする新株予約権の発行が原則として許されないことからすると、企業価値の毀損防止のための手段として新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるというためには、特定の株主の支配権取得により企業価値が著しく毀損されることが明らかであることを要すると解すべきである。」としました。
そして本件では、債権者(ライブドア)の支配権取得により債務者の企業価値が著しく毀損されることが明らかであるとまでは認められないと述べました。
結果、本件新株予約権の発行は、「著シク不公正ナル方法」による新株予約権の発行であると認められました。
その後、債務者側により異議の申立がなされましたが、東京高裁はこれを棄却しました。
会社法の制定により、「特ニ有利ナル条件」は会社法第238条3項に、「著シク不公正ナル方法」は会社法第247条に位置づけられることとなりましたが、裁判所は、この新しい会社法の下でも上記と同様の見解を採用するものと推測されます。
(チ)
新株予約権の株主割当
新株予約権を株主割当で発行するのであれば、発行価額、発行条件の如何を問わず、株主総会の特別決議は必要とされません。この点に着眼して、株主割当の新株予約権を企業買収に対する防衛手段として利用する実例が登場しました。
(a)
実例
産業制御機械メーカーのニレコ(ジャスダック上場)が発表したセキュリティ・プランによれば、買収で企業価値が害されることを防止し、買収提案がなされた場合に当社の企業価値の最大化を達成する手段として用いる方策であるという主張のもと、2005年3月末の株主名簿上の株主を対象に、1株につき2個の新株予約権を無償で交付するとしています。新株予約権の行使価格は1円、行使期間は3年間とされ、将来における株主(権利者)の権利行使を誘発するために、非常に有利な発行条件が設定されたのです。ただし、手続開始要件が成就しなければ、行使期間中であっても権利を行使することはできないとされています。
その手続開始要件とは「ある者が20%以上の株式を取得したことを取締役会が認識し公表したこと」とされています。また、行使期間満了日までに要件が満たされない場合には新株予約権は消滅し、企業価値の最大化に資するような買収等の提案がなされた場合においては、有識者を加えた特別委員会の勧告に基づく取締役会の決議によって新株予約権の全部が無償で消却される、としています。また、この新株予約権の譲渡は制限されています。
この方式は、新株予約権の株主割当による発行であり、第三者割当発行ではありませんから株主総会の決議は必要でなく、株主総会を経由しないで発行を決定しても、取締役会で決定する限り法令に違反することはないことになります。したがって、法令違反を理由として新株予約権の発行が差し止められることはありません。
しかし、基準日以前に株主になった者は新株予約権を取得することができるのに対して、基準日以後に株主になった者は新株予約権を取得することができないということになり、将来の株主の間に権利者としての差異が生ずることになります。
(b)
東京地裁平成17年6月1日決定
そこで上記の差異に関して、不公正な方法による発行であるかどうかが問題とされ、ニレコの約6.9%の株式を保有するエスエフピー・ファンドが新株予約権発行差止の仮処分を東京地裁に申し立てました。
東京地裁は、ニレコが発行を予定していた新株予約権について、①株主総会の意思を反映させる仕組みとして欠けるところがないとはいえない、②新株予約権の行使条件の成就に関する取締役会の恣意的判断の防止が担保される仕組みとなっているとまではいえない、③債権者を含む買収とは無関係の株主に不測の損害を与えるものでないということはできない、などを理由として、新株予約権の発行を差し止める決定をしました。
また、異議に基づく東京高裁の決定も、東京地裁の仮処分決定を認可しました(東京高裁平成17年6月15日決定)。
利害損得勘定でみると、基準日以後に株式を取得して株主になった者は、第三者(従前の株主)が株主総会の決議なしに、「特に有利な」を通り越して「非常に魅力的な」新株予約権をもっているのに等しい関係に立つことになります。そのことは、基準日以後に株式を取得しようとする者の株式取得意欲をそぐことになり株価に影響するでしょう。
(リ)
取得条件付新株予約権
新しく取得条項付株式(会社法第2条第19号、第107条第1項第3号、第168条以下)の発行が認められるのに合わせて、取得条項付新株予約権なるものが認められました。すなわち、一定の事由が生じたことを条件として会社が取得することができる新株予約権です。全ての株式ではなく一部の株式を取得するように設計することもできます。
取得と引換えに会社の株式、社債などの対価を交付することを約束することもできます(会社法第236条第7号)。合併、会社分割、株式交換、株式移転の際に、消滅会社、分割会社、株式交換をする会社、株式移転をする会社の新株予約権者に対し、存続会社、承継会社、完全親会社、設立会社などの新株予約権を交付することを約束することもできます(会社法第236条第8号)。
買収から企業を防衛するために、特に非公開会社において取得条項付新株予約権を利用することも検討されています。
すなわち、取得条項付新株予約権は、一定の事由が生じたときに、会社が取得すると申し出れば、株主の意思を問わないで会社が取得することができる約束(取得条項)がついた新株予約権ですし、会社が取得条項付新株予約権を取得するときに、取得と引換えに新株予約権者に対して会社の株式を交付すると定めておくことができます。したがって、一定の事由を工夫して定めておけば、買収者が一定程度の買収を進めたときに、対象会社が買収者以外の取得条項付新株予約権者の新株予約権を取得して、その対価として対象会社の株式を交付することによって、買収者の株式による支配割合を薄めることができるという仕組です。
(ヌ)
信託制度の利用
新株予約権を利用した防衛に関しては、信託制度を利用する方法も実際に行われています。具体的には、会社が信託会社に対して直接新株予約権を発行する方法とか、特定目的会社などに新株予約権を発行し、それを信託会社に信託する方法などがあります。
有限責任中間法人に新株予約権を発行し、中間法人は新株予約権を信託銀行に信託譲渡しておく方法(イー・アクセス)とか、新株予約権を信託銀行に直接発行する方法(西濃運輸)など、新株予約権の信託を利用した企業防衛方法が報じられました。
いずれも基準日の到来が認定されると、買収者を除く既存株主に新株予約権が与えられ、また、新株予約権の発動および消却には社外取締役が関与するとされています。
(3)
種類株式の利用
平成17年の商法改正、会社法創設によって、従来認められていたものに加えて、いろいろな種類の株式の発行が認められることになりました。これを企業防衛の手段とすることが考えられています。
なお、種類株式による防衛の問題に限らず、防衛策一般について言えることですが、策定した防衛策が法律をクリアーしているという結論が得られたとしても、それを実際に応用できるかというと、もう一つ問題が出てきます。
すなわち、上場会社の場合には、防衛のための種類株式を発行することが、公共性の強い上場会社の趣旨に適合しないと扱われるおそれが生じます。防衛策を講ずるということは株式を買いにくくすることであり、株式が買いにくいということは結果的に買い手が減って、株価が低迷する可能性があるからです。一般投資家の投資手段としての株式の性質を失わせるような、強力かつ確実な防衛方法に関しては、証券取引所や機関投資家から否定的な判断が示されています。
(イ)
拒否権付種類株式
これは黄金株とも呼ばれるもので、株主総会(取締役会、清算人会など)の決議の効力を否定することを可能にする種類株式です。
つまり、この株式を有する種類株主総会の決議がなければ株主総会決議は効力を有しないことになります(会社法第108条第1項第8号)。一人ないし一社がこの種類株式を有することも可能ですし、この種類株式に譲渡制限をつけて会社が譲渡の諾否決定権を留保することも可能です。
問題は、株式が投資の対象であるという観点から考えたときに、拒否権があると株式投資の魅力が減少するということです。実際に上場会社の場合は、強力な黄金株は取引所に好まれない株式です。
(a)
実例
黄金株は、実際にUFJ銀行と東京三菱銀行の間で実行されました。
これは経営統合の一段階で起こった事例ですが、UFJホールディングス(以下、UFJHD)の完全子会社であるUFJ銀行が三菱東京ファイナンシャル・グループ(以下、MTFG)に対して、第三者割当増資により優先株式を発行しました。
この優先株式には、UFJ銀行の行う定款変更、合併、株式交換、株式移転、会社分割、営業譲渡、譲受、純資産5%以上の財産の処分または譲受、株式、新株予約権等の発行、取締役選任、解任、利益処分、損失処理などに関して、MTFGが株主となっている種類株式の株主総会決議が必要であるという条項が定められていました。
つまり、UFJ銀行の株主総会の大部分の重要な決議に対し、MTFGが拒否権を発動することができると定められ、このことは、UFJ銀行にとって強力な買収防止策が構築されたことを意味します。
このような優先株式を発行するには、そのことを定款に規定する必要があります。定款変更のためには株主総会の特別決議が必要ですから、通常はその段階で株主の保護が機能しますが、UFJ銀行の株主はUFJHDただ一人でしたから、難なく定款変更が可決されたのです。持株会社組織を作って子会社にこの株式を発行させますと、子会社の株主総会は親会社一社だけの単一意思で形成されますから、親会社の株主が構成している実質的な株主総会の機能も排除する効果が生じます。
UFJ銀行の実質的な株主は、完全親会社であるUFJHDの株主であるにもかかわらず、その株主による株主総会の権限が、取締役の裁量によってこのように制約されても良いのかという株式制度の根幹にかかわる疑問が提起され、議論されました。
(ロ)
議決権制限種類株式
議決権制限種類株式制度を利用して、普通株式を議決権の制限された種類株式にしてしまう方法も提示されています。例えば、全体の20%未満の株式を保有しているときにのみ議決権を行使することができる、ということを種類株式(議決権制限株式)の内容として定めてしまう方法です。
(ハ)
取得条項付種類株式
上場会社でない場合には取得条項付株式の利用が考えられないわけではありません。
会社法では「取得条項付」という用語が頻繁に使われていますが、これは会社が取得するという意思を表示すれば、株主の有する株式を会社のものにすることができることが約束されているという意味です。反対に株主が申し出て株式を会社に取得させることができる場合は「取得請求権付」という用語になります。いずれの場合も会社が取得したならば、会社にとっては自己株式の取得になります。
防衛策としては、買収者の持株を取得条項付種類株式に転換してしまうように設計する方法を考えます。こうすれば、会社の意思で強制的に株主から株式を取得してしまうことができるのです。しかし、これは強引な方法ですから、それなりに株主の保護手続を踏む必要があり、事前に株主の全員の同意があるときに打っておく方法でしょう。
具体的には、普通株式を取得条項付にしてしまうために、
種類株式を発行できる状態を作ります。ただし、実際に種類株式を発行する必要はありません。
普通株式(この段階では一つの種類株式)を取得条項付種類株式にするために定款変更をします。この手続には株主全員の同意が必要です(会社法第111条第2項)。
③ 会社は必要なときに取得条項付種類株式を取得して、株主に他の対価を交付します。対価として議決権制限株式を交付するように設計することもできます。
いずれにせよ、この方法は買収が始まって株主の中に異分子が登場したときは利用できません。
(ニ)
全部取得条項付種類株式
種類株式を利用して、かつ、株主の全員一致ではなく、株主の多数決で防衛の効果を発生させる方法としては、全部取得条項付種類株式の利用があります。
概要を述べますと、種類株式の発行状態を作ってから、普通株式(この段階では種類株式)を種類株主総会の決議で全部取得条項付種類株式に変更し、実際に会社が株式を取得する必要が生じたときに、株主総会の決議によって全部取得条項付株式を全て会社が取得し、株主に何らかの対価を交付する方法です。
(4)
株式相互保有
会社が相互に相手方の株式を保有し、株主総会の運営を通じて相互に助け合う方法です。一方の会社において株主総会が行われる際には、株主である他方の会社が協力的に議決権を行使して会社の多数派を構成して株主総会を乗り切り、逆の場合は立場を代えて相互に協力するのです。三社以上が環状的に保有の連鎖を形成して、集団で協力する方法もあります。
株式相互保有(持合)は、伝統的にわが国の株式保有構造を特徴づけていた現象ですが、最近の持株関係の解消によって会社間の相互防衛構造が瓦解し、それによって買収の危機が生じたと論じられるように、時代的には後ろ向きの方法です。株式を相互に保有することによって出資が相殺されているのではないかなどという批判に耐えられるものでなければなりません。
株式相互保有に関しては、パックマン・ディフェンス(第2章第2の5(4))で述べたことも参照して下さい。
(5)
株式の分割
株式会社は株式の分割をすることができます(会社法第183条第1項)。株式の分割とは、1株を2株に分割するとか、10株を11株に分割するなど、株式を細分化する行為です。
例えば、市場で取引される株式数を増やして取引単価を下げ、個人株主などが取引しやすいようにするために利用されたりします。
株式を分割しても会社の資本金や会社財産に変動はありませんが、当然のことながら、各株主の持株数は増加します。株式分割後も会社が1株あたりの配当額を維持するならば、株式数の増加は株主にとって増配効果があることになります。しかし、株式を分割しても各株主あたりの会社の純資産額は変りませんし、株主間の相対的な支配割合も基本的には変化しません。株式分割は、各株主の間の相対的地位に影響を与えませんので、取締役会設置会社では、取締役会の決議(その他の会社では株主総会の普通決議)によって行うことができます(会社法第183条第2項)。
買収の対象とされた会社が株式の分割をすると、株式数が増加しますから、買収者が購入を予定していた株式数を取得しただけでは所期の目的を達成できないことになります。そこで、株式分割が企業防衛の効果があるのではないかと考えられるのです。
株式分割によって株式数が増加すれば、それに対応して時価が低下しますから、理論的には、株式分割の前後で時価総額(すなわち株式数と時価の積)に変化はないはずです。
しかし、実際には市場が敏感に反応しないために、少なくとも一時的には、株式分割によって時価総額が上がることがあります。その点も買収側にとっては嫌な点です。
(a)
実例
実際に買収、防衛に関係して株式の分割がテーマになりました。
これは、施工図作図や施工管理業務の請負事業などを主たる業務としている夢真グループの純粋持株会社である夢真HD(大阪証券取引所ヘラクレスに上場)が、都市設計を主な業務とする会社である日本技術開発(ジャスダック上場)を買収しようとした事件です。
夢真が日本技術開発の発行済株式総数の5~6パーセントを保有した段階で買収の意向があることを知った日本技開は、「株式を20%以上買い付けた者に対して、十分な情報提供をすること、および、大規模買付けをする前に取締役会による評価期間をおくこと」を求める自社の大規模買付ルールを定め、さらに「大規模買付者(20%保有)により、大規模買付ルールが遵守されなかった場合には、具体的な買付方法の如何にかかわらず、取締役会は、会社および株主全体の利益を守ることを目的として、株式分割、新株予約権の発行等の手段を行使して大規模買付行為に対抗する場合がある。具体的にいかなる手段を講じるかについては、その時点で最も適切と取締役会が判断したものを選択することとする。ただし、取締役会が具体的対抗策として一定の基準日現在の株主に対し株式分割を行うことを選択した場合には、株式分割1回につき株式1株を最大5株に分割する範囲内において分割比率を決定するものとする」ことを明らかにしました。
これは事前警告型防衛策の一種です。
(b)
東京地裁平成17年7月29日決定
双方が警告を出し合う状態の後、日本技術開発の取締役会は株式分割を決議しました。その後、夢真HDが日本技術開発の株式の公開買付けを開始し、さらに、東京地裁に対して日本技術開発のした株式分割を差止める仮処分を申請しましたが、裁判所は、以下のように述べて、この申立を却下しました。
「①債権者(夢真HD)は、平成17年6月15日から短期間の間に債務者(日本技術開発)株式を多数取得し、発行済株式総数の約6.83パーセントを保有する筆頭株主となったこと、②債務者は、債権者との間で、同年7月7日に債権者が債務者株式を大量に取得した経緯を聴くために会談を行い、債権者が業務提携の協議を申し入れ、協議に応じるか否か同年7月11日までに回答を求めたのに対し、債務者は同月15日まで返答の猶予を求めたこと、③債務者は、翌8日に独自に定めた本件大規模買付ルールを公表し、大量買付けを行おうとする者に、債務者取締役会に対し事前に十分な情報を提供するとともに、債務者取締役会による一定の評価期間が経過した後に大規模買付行為を開始すべきことを求めたこと、④これに対し、債権者取締役会は、同月11日に債務者株式を公開買付けにより取得することを決議したこと、⑤債務者は債権者に対し本件大規模買付ルールに従い、事業計画を提出するとともに、公開買付けを債務者の定時株主総会が開催されるまで実施しないよう求めたけれども、債権者がこれを拒否したこと、⑥そのため、債務者は、同月18日、取締役会において本件株式分割を行う本件取締役会決議を行ったこと、⑦債務者の定時株主総会が同年9月末までに開催されることとなっているところ、本件株式分割の効力は同年10月3日に生ずることの各事実が認められ、こうした経過からすれば、本件株式分割の目的は、債権者が本件公開買付けをする前に本件取締役会決議をすることにより、債務者の定時株主総会が開催されるまで債権者が公開買付けを行うことを阻止することにあるということができる」とし、「本件株式分割を行った本件取締役会決議は、その経緯において批判の余地がないではないものの、取締役会が本件株式分割を決議した意図(取締役会の保身を図るものとは認められず、経営権の帰属に関する株主の適切な判断を可能とするものであること)、既存株主に与える不利益の有無及び程度(株主の権利の実質的変動をもたらすものではないこと)並びに本件公開買付けに対して及ぼす効果(本件株式分割が本件公開買付けの効力の発生を定時株主総会以降まで引き延ばすものにすぎず、その目的の達成を法的に妨げる効果を有するものとは認められないこと)の観点からみて、本件株式分割が、証券取引法(筆者注:現在の金融商品取引法)の趣旨や権限分配の法意に反するものとして、直ちに相当性を欠き、取締役会がその権限を濫用したものとまでいうことはできない。
なお、債権者は、本件株式分割により、事実上本件公開買付けの実施が困難となると指摘するところ、これを認めるに足りる疎明がないことは判示のとおりであるが、仮に、本件株式分割の結果、本件公開買付けに事実上著しい支障を来したと認められる場合には、対抗手段としての相当性を欠くと解する余地もないではない」と結論付けました。
(6)
上場からの撤退
(イ)
株式譲渡制限
「当社の株式を譲渡するには会社の承認が必要である」という制度を導入する方法です(会社法第107条第1項第1号)。そのことを定款に定めておけば、株主が株式の売却先として選んだ新規参入予定の株主候補者を取締役会(株主総会)が拒否することができます(会社法第139条)。
ただし、譲渡を承認しないときは、会社がその株式を買うか、または、会社が指定した指定買取人が買うか、いずれかの方法で、株式を換金したいと申し出ている株主の要求に応じなければなりません(会社法第140条)。株式買取価格は第一次的には株主と会社(指定買取人)の間で協議して決めますが、決らなければ裁判所に持ち込むことになります(会社法第144条)。ということは、会社または指定買取人のいずれかが株式購入資金の手当をすることが必要になります。もし、株主間の結束が崩れて株式の譲渡を希望する株主が多数になれば、会社側にとって資金的に大きな問題が生じます。
株式譲渡制限をつけたまま上場を維持することはできませんから、譲渡制限を設けたならば、上場によって一般市場から投資を募るという利益は放棄しなければなりません。
株式譲渡制限のない会社が、このような制度を設けるために定款を変更しようとすると、その変更要件は非常に厳格です。株主総会で議決権を行使することができる株主の半数以上の賛成と、同じく株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法第309条第3項第1号)。
なお、種類株式にだけ株式譲渡制限を付けることもできます(会社法第108条第1項第4号)。
(ロ)
MBO
(a)
MBOの意義
MBO(Management Buy Out)は、会社の経営者などの内部者が、場合によっては外部の資金提供者と協力して、自社の株式などを取得する方法により、自社を買収する行為です。つまり、一般に買収の対象となった会社の経営者またはその子会社の経営者が、対象会社の株式、子会社株式、事業などをその会社(所有者)から買収する行為です。
上場会社においては、これによって上場廃止の効果が生じます(経営陣による企業買収)。ということは他社に買収されるおそれがなくなることでもあるため、その点で防衛方法の一つに数えられるのです。もっとも、MBOは買収に対する防衛のためでなく行われることもあります。
(b)
MBOの手法
典型的な方法としては、まず買収目的の新しい会社を設立して、そこに経営者、協力金融機関、ベンチャー・キャピタルなどが出資をし、そこでまとまった資金を使って、対象会社の株式もしくは営業資産を買収するという方法によるのが一般的です。
新しい経営者は、既存の会社の支配関係から離れて独自の経営戦略を策定することができます。また、対象会社およびその事業に精通した者が経営を承継することになるために、M&Aに伴う企業風土の変更が少なく、アカの他人に乗っ取られたという感覚も薄く、従来からの取引関係や就労関係が維持される可能性が高いというメリットを有すると考えられます。
株主はMBO計画に納得しなければ株式を売らないでしょうが、大方の株式が売られてしまえば、いずれ上場が廃止されると踏んで、残りの株主も売却に応ずると考えられます。
ただし、会社の財産を会社の内部者が取得するという関係からくる利益相反の問題は要注意です。また、外部資金が巨額である場合には、MBOに成功しても、新会社の支配は外部資本が牛耳るという構図ができ上がることも要注意です。
(c)
実例
アパレルメーカー大手のワールドが実際にMBOを実行しました。具体的には、社長が実質的に保有する会社がワールドの株式に対して公開買付けをするという方法によりました。MBOが成立すれば、金銭交付による簡易株式交換を行うことも示されました。
株主は公開買付けに応じなくてもよいのですが、公開買付けに応じなかった株主は、引き続き株式を持ち続けても、いずれワールドが上場会社でなくなったら、持株を市場で売却することができなくなります。結局は、株式の流動性が著しく損なわれること、売却価値にも不安があることが危惧されて、株式が売られました。
(d)
株式を上場するメリット
日本でもMBOが現実化したことによって、株式を上場することの意味が改めて問われることになりました。上場会社は非上場会社よりも規模が大きく、上場のメリットも多いものと考えられています。株式の流動性が高まるということ、つまり、株式の換金が容易であるということは、いろいろな面で好感されます。
なぜ株式を上場するのでしょうか、そのメリットを以下でとり上げます。
資金調達
株式を上場した会社は、さらに株式を発行して新規の株主から資金を調達できる可能性が高くなります。つまり、広く投資家から投資資金を調達することが容易になります。投資する者は投資した資金を会社に拘束されてしまいますが、投資の対価として取得した株式を売却して利ざやを稼いだり、担保化することができます。
しかし、株式市場がない株式では換金が容易ではありませんから、このような利用は困難になります。
投資家にとって資金が必要なときに株式を容易に現金化することができれば株式には大きな投資魅力があることになります。それを実現しているのが上場株式なのです。投資家はそのことを考えて投資をしますから、株式が上場してあれば、資金の調達がやりやすいのです。
製品、従業員を意識した会社のイメージ・アップ
非上場会社のことを「未上場会社」と称することがあります。そこには、会社はいずれ上場することが既定のコースであり、上場することによって一人前の会社になるというような雰囲気が感じられます。「未成年」が、いずれ一人前の成年になる仮の姿であるように表現されているのと同じです。
上場には、上場会社こそが完成した株式会社であるという一般的意識を経営に利用できるというメリットがあります。「買うなら上場会社の製品だ」、「勤めるなら上場会社だ」、「取引をするなら上場会社だ」という一般的な傾向を利用できるのです。もっとも、この点については例外があります。
ストック・オプションの効果的利用
ストック・オプション(主として取締役、従業員に交付される一種の新株予約権)を取得した権利者は、いずれ株価が高くなって株式を売却して現金化できることに大きな魅力を感じます。上場会社ならば、株価が上昇すればオプションを実現することによって株式を取得して、それを換金することができます。
しかし、非上場会社の株式の場合は、ストック・オプションという、株式を有利に取得できる権利を与えられても、取得後の株式に換金性がなく、魅力を感じられません。
組織再編行為の容易化
合併、株式交換、会社分割などの組織再編行為を行う際に、株主総会の決議を得ることが必要ですが、そのためには、対価として交付される株式が魅力的価値のあるものであることが必要となります。換金性の薄い非上場株式が交付されるという内容では、合併等を有利に進められないという事実上のデメリットがありましょう。つまり、組織再編行為を利用して他社を買収しようとする会社は、自社の株式が換金性を有することが有利になるのです。
以上のことは、対価として株式の交付が選択された場合のことであって、会社法によると、対価は株式に限定されず、株式以外の財産でもよいとされています。
上場による利益
株式上場時に株主がキャピタル・ゲインを得ることができることも魅力です(IPO)。会社を設立し育て上げた創業者が、株式の上場によって利益を得ることになります。
(e)
株式を上場するデメリット
逆に、株式を上場していることのデメリットとしてあげられることは、
敵対的企業買収の対象に晒されること、
ともすると短期的利益の獲得を意識する傾向のある株主によって経営が影響されること、
企業情報の開示が義務づけられるため、会社内部の貴重な情報がライバル会社などの外部の者に知られてしまうこと、
上場することによって生ずる情報開示などの事務手続費用が増すこと
などです。
以上のような上場のメリット、デメリットが計算されて、各社の経営が展開されますが、多くの場合MBOは、上場と決別しようとする経営者の決断の現れの一つであると考えられます。
(7)
組織再編行為
合併、株式交換、共同株式移転など、組織再編行為と呼ばれるものを企業防衛の手段として利用することも不可能ではありません。なぜならば、これらの行為は株式の発行を伴うからです。これらの手続によって新規に発行される株式を味方の手に入れれば、防衛側の議決権が多数になるというわけです。買収費用を過大にして買収者に負荷を与える効果もあります。
通常の株式発行による防衛、すなわち、経営側の味方となる第三者に新株を発行する手続と比較すれば、組織再編行為が防衛方法として持つ意味の理解は簡単です。
新株発行の場合は、発行会社は相手方である引受人から現金の交付を受けて株式を発行します。それによって経営者側の味方の株式数が増加します。
では、味方に対して株式を発行するというところは固定して、相手方から取得するものを現金ではなく、他社の財産を含む法人格の全てであるとすれば、それが吸収合併なのです。吸収合併は、相手方会社(消滅会社)の全ての財産を承継する対価として、その会社(消滅会社)の株主に存続会社の株式を交付するのです。第三者に対する株式の発行が防衛策の一つであるというのであれば、吸収合併も、株主総会の決議は必要とされますが、存続会社(吸収会社)にとって防衛策の一つであることになります。
ただし、あからさまな企業防衛のための合併は疑問視されますし、株主総会の承認決議が得られるか不安が残ります。実行するに際しては、組織再編行為をすることの必要性、合理性を磐石にしておくことが望まれます。
吸収合併と同様に、株式交換、共同株式移転などの組織再編行為も防衛手段の一つとして位置づけられます。
組織再編行為は買収のための手段としても機能しますので、その詳細は、第3章の「友好的買収」の手段の中で改めて述べることにします。

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