新株の引受け

企業買収と企業防衛マニュアル

第3章

友好的買収

集合写真
第3

経営者に友好的な買収

買収の対象とされた会社の経営者の合意は必要であるけれども、対象会社の株主の合意は不要である、特に株主総会の決議は必要ないという手続で行われる買収、つまり対象会社の経営者にのみ友好的である買収をここにまとめています。この類の行為による買収は、買収として論じられることが少ないですが、実態を考えれば見落とせない買収であることが分ります。
以下には、株式や新株予約権を利用した、対象会社の経営者に友好的な買収の典型例について述べます。
なお、組織再編行為が買収の手段として利用されるときに、通常は買収する側の会社と買収される側の会社の双方において株主総会の特別決議が必要になりますが、例外として、買収される側の会社において株主総会の決議が必要ないという略式手続による処理が認められています。これは買収する側の会社が買収の対象とされた会社の株式の90%以上を保有している場合です。この場合は、対象会社の株主の同意を得ることなく買収手続が進むことになりますから、組織再編行為でありながら、対象会社の経営者にのみ友好的な買収の類型に加える必要があります。

新株の引受け

(1)
株式購入との比較
典型的な敵対的買収は、対象会社の株式を購入する方法によるもので、多数の株式を買って所有すれば対象会社を支配することができるという構図でした(第2章)。
では、株式を買うのでなく、対象会社から新しく株式を発行してもらったらどうでしょうか。多数の株式を所有する新しい株主が誕生するという状態が形成されることに変わりはありません。
具体例で考えましょう。1万株を発行している会社の株式のうち5000株を買い占めれば、50%の支配を獲得することができます(典型的な買占めによる買収)。では、同じ会社の株式を買うのではなく、その会社に1万株の株式を新たに発行してもらって、その全てを取得することができればどうでしょうか。合計2万株のうちの1万株を所有することになりますから、株式を取得した者は、やはり50%支配の株主になるのです。これは、他社株式の引受けによる買収ということができるでしょう。
新株引受けによる買収は、典型的な買収と異なって、対象会社の経営者と意思を通じて行うことになりますので、友好的な買収として整理されるのです。
前者の場合、つまり株式が買い占められる場合には、株式売却の対価を取得するのは株主であり、対象会社に資金は一銭も入りませんが、後者の場合、つまり対象会社が株式の発行をする場合には、会社に大量の資金が入るという違いがあります。ただし、現実的には株式を引き受ける者(買収者)にとっても魅力のある取引であることが必要になります。
(2)
組織再編行為の側面
もっとも、法律はこのような大量の第三者に対する株式発行、特に株主総会の承認を要しない発行には厳しい条件をつけています。しかし、これを全て禁止しているわけではなく、実例もあります。これは、いわば経営者が株主を選ぶというルートです。
この行為は、会社法が第三者に対する募集株式の発行として定めているものです。これらの行為は、株式を取得する者が会社に対価を支払う点に着目して、いずれも会社の資金調達方法の一種として叙述されることが多いため、株式取得者の側から見て買収の手段になるという視点は忘れられがちになっています。通常の株式数の発行であれば、会社の資金調達行為であると性質づけることができますが、大量の株式が第三者の手に入った場合は、単なる資金調達行為ではなく、組織再編行為の様相を帯びてくるのです。
株式発行(新株予約権の発行、新株予約権付社債の発行)が既存の株式数に比較して大規模で行われる場合には、実質的に組織再編行為の効果が発生するにもかかわらず、法律はこれらを組織再編行為として一括して扱っていません。
(3)
新株引受けに対する規制
会社法によると、株式募集事項の決定は、株主総会の特別決議によらなければならない(会社法第199条第2項、第309条第2項第5号)のが原則ですが、公開会社(株式譲渡制限のない会社)においては、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合(会社法第199条第3項)を除いて、取締役会が株式募集事項を決定することができます(会社法第201条第1項)。その場合に、市場価格のある株式を引き受ける者を募集するときは、払込金額を定めないで、公正な払込金額の決定方法を定めることもできます(会社法第201条第2項)。

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